第23話

 遊歩は自分のスマホに起きた変化をすぐに理解した。

 戦闘中にもかかわらず編成変更が可能になっている。

 なんだこれは。

 動揺と混乱。

 だが、まもなく割り切った。

 なんでもいい。

 望んで望んで、しかし不可能だったことが今、可能になった。大切なのはそれだけだ。現代人らしい指捌きで画面を操作、編成中のキャラクターを一体、別のキャラクターへ変更する。ライアがまた伝令へやってきたときにはもう、彼は新たなに編成したキャラクターを召喚し、仲間の窮地へ向かわせていた。

 悪霊の陣形はもはや崩壊し、烏合の衆と成り果てていた。大半が戦意を失い、精霊側に背後から狩られるばかり。ただし群れの中心部だけは違っていた。火炎を纏った女騎士を取り込み、彼女が力尽きるのを今か今かと待っている。大局的には敗北に瀕していても、ここだけは彼らにとって甘美なる勝利を目前に控えた宴会場なのだ。

 だが、そこに割って入る者があった。

 外部から加えられる攻撃。それ自体も彼らを動揺させたが、さらに驚かせたのは、突進してくる相手の姿。その姿はまさしく、彼らが包囲し追い詰めているはずの宿敵、炎熱の騎士カーディナルだった。

 火属性と土属性の群れに突入するには、まず風属性と水属性は避けねばならない。風は火、水は土に弱いからだ。そうなると残るのは火属性か土属性ということになる。しかし遊歩は土属性の精霊でそれほど優秀なものは所持していなかった。SSRがいるにはいるが、サポートタイプで、単騎で突入させるには心許ない。火属性で、能力が高く、単体でも活躍できる――となると、候補は自ずと一つに絞り込まれた。カーディナルだ。

 たった一人でこれまで大勢を相手にしてた傑物が、どういうわけか二人に増えた。それは悪霊たちをいよいよ絶望へ追いこむのに十分な事実だった。悪霊の軍勢はついに壊走を始めた。我先にと逃げだす雑兵が次々と射貫かれる。精霊側の勝利はもはや確定した。あとはそれが完全な勝利になるか、苦い勝利になるか。オリジナルのカーディナルはついに炎の渦を維持できなくなった。もはや悪霊たちはほとんどが戦意喪失状態で、彼女に目もくれず逃走していくが、まだ僅かに、姑息な功名心を抱いている者も残っていた。多少なりとも冷静に相手を見られれば、彼らがカーディナルを狙わない理由はなかった。彼女は今や完全に無防備だ。斧を頭に振り下ろせばそれで終わる。この場を無事逃げおおせた後に褒賞を望む者、無惨な敗北の中でも自軍に一掴みの栄光をもたらそうとする者。彼らにとってカーディナルは絶好の標的であり、そして最大の障害だった。無防備になったオリジナルのカーディナルを、駆け付けた分身のカーディナルが守っていた。分身の本来の役割は逃散する悪霊軍主力を足止めし、味方による殲滅を助けることだ。その任務をこなしながら傷ついた女騎士を守るのはそれなりに難儀であった。それでも忠誠と献身の騎士を模した分身は、己の身を顧みず役割を全うした。

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