第三章
第13話
空は厚い雲に覆われ、激しい雨が止むことはなく、暴風が吹き荒れる。黒く脆い岩肌は容易に崩れ、足をすくう。あちこちに見えづらいクレバスが走り、そこから間欠泉が噴き出す。山頂の火口はときおり溶岩で赤く輝く。
邪悪の住処にはもってこいの土地だ。
遊歩は慎重に進んでいた。ここには悪霊が存在しないと知っている。そうでなければ、さすがに挑戦していない。こんな場所で襲われたら抵抗しようがない。まして今は自分ともう一人、非力な盗賊しかいないのだから。
「ねえ、やっぱ帰ろうよ」
「駄目だ。お前の力が要る」
「もっと他にいい人がいるってば」
レインコートを着た男女二人が暗黒の火山を登っていく。
王宮の大使と軽妙な盗賊。遊歩が後に続きライアが先行する。
遊歩には確たる目的がある。彼の瞳は極限の環境下でも死んでいなかった。一方、むりやり連れてこられたライアはまったく悲惨であった。なぜこんなことになったのか。彼女は何度目かわからない後悔と回想をしていた。
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