第五話 夏の可惜夜③

しかし、那智はそれに気づかず進んでしまった。私が気づいた時には既にかなり離れてしまっていた。かろうじてお互いの姿を確認出来る程度だ。近寄ろうとしたが、人混みに流されて、二人とも思うように動けない。


「すみません、すみません」と言い続けていると、ようやく手が届いた。グイッと手を引っ張られた。



その時、私の頭の中が真っ白になった。手を繋ぐとしても、普通に繋ぐと思った。だが、さらさらとした那智の手はするりと、私の手と重なり、恋人繋ぎと呼ばれる形に変化した。



那智には、これが普通なのかもしれない。平静を装って会話するが、こういうのは、いつ手を離せばいいのだろう・・・・・・。照れたヒロインが露骨に手を離して、ヒーローが傷つく少女漫画なら、山ほど見た。そんな謎のことを考えていたような気がする。

しばらくこの状態が続いた。私は携帯を取り出すために(という名目で)手を離した。


今の感覚はなんだったんだろう・・・・・・。そんなことを考えながら、私は先程の店の列に並んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る