第42話 姉弟の再会

 1月1日 04:12


 ダイダラボッチが出現してしまった。


 それを大喜びでゴム毬のようにその辺跳ねて喜ぶ女妖怪。


 とりあえず、そこの女妖怪は消し屑にしておきたい。


 が、仕事が変わった。


 近隣住民の避難指示、自治体との連携、被害を最小にするための広範囲結界の布設などなど……。


 妖怪一匹に割いてる間なぞない。


 呼び出そうとしていた“山の女神”はどうなったのだろうか?


 小堺は訊ねた。


「先生? 山の女神は? 失敗したんですか?」


 安倍芳寿は青い顔をして、女妖怪を見た。


「……私が……呼び出す前から現場にいたようです。」


 小堺は、言葉を失った。


 なぜ、どうして、神様相手に無駄な問答である。


「しかし……、まだ、使い道はある。」


 安倍芳寿は、まだそのままにしてある祭壇の前で幣帛へいはくに火をつけた。


「先生!!!」


 小堺は止めた。それでも安倍芳寿は祝詞を手にした。


「あの女神、生駒の神の眷属神なんです。まだこちらには道満の人形がある。人の請願は聞かずとも……。」


「眷属神やったら聞くと?」


「えぇ。」


 加茂部長も難しい顔をして聞いていた。


 確かに、眷属神に願い出させれば聞いてくれる可能性は大きい。しかし、神様にも縄張りがある。

 ここは奈良、大阪の県境ではない。


 


 当然、琵琶湖の神様方の縄張り。


 古参の神と言えど、土足で踏み入るなど無遠慮なことをするとは思えない。


 加茂部長は、


「ここは引きましょう。災害対策に入りましょう。被害を最小限に……。」


「しかし……!!」


「我々はっ!! 市民の安全と生命を守る義務があります!」


 ………………………………。


「解りました。」


 安倍芳寿は拳をギュッと握りしめ、少し黙ると、彼もまた、撤退の準備に入った。


 ガァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!


 ダイダラボッチの雄叫びが聞こえる。


 まだ地上に出ているのは左腕だけだが、その内全体を現すだろう……。


「うわぁ~。やっぱりデカいな。」


 と、脳天気な声が聞こえた。


 加茂部長、安倍芳寿、小堺、他、その場にいた現場班が一同、彼女を見た。


 レモンイエローのパーカと、ダボダボジャージの目つきの悪いJKが、裸足で立っている。


「…………。マツリ?」


 小堺が聞くと、


「おぉ。オッサン。いつもの5割増で人相悪いなぁ。」


「へ、減らず口きいてやんと、お前っ! ベッドに寝てやなアカンやろ!!」


 小堺は、マツリのことが余っ程気にかかっていたのだろう。泣いている。

 マツリはため息一つ吐いて言った。


「しゃーないから、オッサン助けたるわ。」


「は!??」


 小堺は出てきた涙が一気に引っ込んだ。


 何を言っていいるのか……。


 ダイダラボッチの出現で大騒ぎだというのに……。


 助けたる???


「お前っ! 何言う……。」


 小堺が言うより早く、マツリは行ってしまった。


 人間では到底ありえない跳躍をして。


 そして、大きな地震が襲った。


 立っていられず皆、四つん這いになった。


 地震が収まり、見上げれば―――


 雲も突き破りそうな黒い巨人が、真っ赤な目を開け天に向かって咆哮した。


「マツリ……。」


 小堺は呟いた。


 マツリはダイダラボッチの前に立った。


 ダイダラボッチからしたらマツリなど、アリのような小ささだったが、それでもすぐ彼女を見つけた。

 邪魔な木を引っこ抜きその辺に投げる。

 そして、マツリとダイダラボッチの間の障害物は無くなった。


「姉上。」


「亜子ぉ……。」


 ダイダラボッチは赤い目をこれでもかと見開き、マツリを見た。


 そして、マツリを掴み、飲み込んだ。


 白んだ空にはまだ月明かりが差していて、小堺達のいるところからもよく見えた。












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