第41話 厄介女神

 神様――――。


 一般には慈悲深いとか、優しくも厳しいとか、理想的模範的なイメージではなかろうか?


 小堺やご同業達が実際相手せねばならぬ神は、


 時に、人間じゃ理解不能な理屈でごねたり、怒ったり、果ては災害などの被害を起こすこともあり、それをなんとか宥めすかさねばならぬ相手、である。

(慈悲深いというか、人間から頭を垂れられ崇められるのが好きで、人間に友好的な神もいるにはいるが……)


 精度の高い人形を作り、生贄の代わりに神々に差し出し、交渉したり、溜飲を下げてもらったり、よく使う手段で、実績もあり成功確率も高い。


 こういったことは、伝統的に宮内庁の儀式礼典課特殊現場対応室の管轄である。

 が、


 今回は、土御門高能の補佐の元、安倍芳寿が取り仕切ることとなった。

 なぜなら、天狗と直接やり取りをしたのが彼だから。


 そもそも、妖怪や神様は人間と意思疎通しにくいものである。

 根本的な考え方価値判断が違うのもあるが、言葉の壁が大きい。

 それらを全て取り払い、相手の目の前にいきなり立ててしまう能力が“心眼”である。古代日本で、斎王にその能力を求められていた理由でもある。

 しかし、時代が進むにつれどんどん稀な能力となっていき、今や幻。


 だから、我々のような普通の人間……一般よりは感覚が鋭敏な我々は、儀式という方法で、神様連中にご機嫌伺いをするのだ。


 余談ではあるが、天狗は例外で、仏教を通じて深い文化交流があったため、天狗は人語を理解し、喋ることも可能。


 今回呼び出すという山の女神は、その土地一帯の妖怪共を配下にしていた、お山の大将のような存在で、後から祀られた神様に隷属することで、地位を守っている。


 このことから、山の女神は自然に近いというか、野生動物に近いというか、ある一定の理解はできても、人と同程度の理解は得にくく、彼女ら独特の思想があるため、取引は慎重にしなくてはならない。


 ただ、今回は天狗からの情報により、道満という有効な餌をぶら下げられるので、ある程度儀式の難易度は下がる。


 と、安倍芳寿や安倍翔馬は考えている。


 また、安倍芳寿が直接天狗と会ったというのも大きい。彼には、人間では到底わからないが、天狗と会った痕跡がある。

 山の女神ならばそれを察知できる。


 人間でも、知り合いの知り合いとなれば、多少警戒のハードルは下がるものだろう。


 だからこそ、踏み切ったのだが、


 


 彼等は痛く後悔したそうだ。


 そして、儀式の開始と、ダイダラボッチの解体作業を始め、さぁ、一部封印解除というところにきた。


 小堺他に6名で、数珠や三鈷や日本刀を構え、封印解除と同時の破壊に備える。

 周りの結界班がカウントダウンを開始。

 ところが……。


「一部結界解除まで20秒前……15秒……テンカウント入ります! 10……9……8……わ、

 わぁ!? 何!? ダメです!! 結界再構築っ!!!!」


「なんや!!? どないした!!??」


 小堺が振り返ると、

 元は綺麗だったと思われる、残骸のような着物をまとい、茶色の肌を化粧したのだろうか? 白粉でペンキのように塗りつけ、カエルのようにほぼ唇がなくて、大きい口に真っ赤な口紅を塗った、三つ目の化け物女が、相撲取りの四股のような格好で、髪を逆立て牙を抜いていた。


「妖怪!? 何でこないなところに? 他は逃げとるやろ??」


 小堺が言うと、

 妖怪女は口から火の玉を吐き出し辺り一帯を攻撃し始めた。


「囲め!!」


 加茂部長が叫んだ。


 結界班に損害を出す訳にはいかない!!


 今動けるのは破壊班のみ、小堺始め6名は彼女を囲み、防御陣を敷きながら間合いを詰める。


 すると、


 きぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!


 奇声を発しながら防御陣にひびを入れられた。


 強い!!


 この妖怪、ただの妖怪ではない!!


 一旦、小堺達は距離を取ろうとしたものの……。


 メキメキ……!! バキっ!!!


 女は割り箸のように、手近にあった木を折り倒し、それを……。


 ドォぉぉぉぉぉぉ……!!!


 塚に向かって投げ、命中。

 塚はバラバラに……。


「アカンっ!!! 逃げろぉぉぉっ!!!!」


 女は喜色満面に、ディズニーキャラクターの悪役よろしく大笑いし、職員は撤退を余儀なくされた。


 そして、塚から黒い触手のようなウネウネしたやつがいくつも出て、辺りの木や穴ぐらに縮こまってたたぬきなど、小動物全て引きずり込んだ。


 多分、喰われたのだろう……。


 すると、大きく地面が陥没し、黒い巨大な手が夜空に伸びた。


「報告します。ダイダラボッチ出現。総員撤退。命を守る行動をしてください。」


 加茂部長は無線で伝えた。


 その頃、マツリは目覚めた。


「人間の価値って……えらい大層なこと言うてんな、清明……。」


 マツリは起き上がった。


 頭の中には小堺が浮かんでいた。


「オッサン助けたらな……。」


 そう言うと、病院の窓から飛び出していった。


 新年を迎える夜明け前、まだ闇夜が支配している。


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