第40話 小堺復活

 ダイダラボッチ出現1日前。


 昨日未明から、滋賀の湖南を震源とする地震が近畿圏内を襲った。


 震度は3〜4と比較的揺れの少ないものだったが、それが断続的に続いている。


 南海トラフ巨大地震の恐れありとして、ニュースでは年末なのに、そのことで持ち切りとなった。


 そして、小堺健司は突如として釈放された。


 いきなりなんだと思ったら、


「本当に今回はすみませんでした。」


 と、以前安倍家で見た青年に深々と頭を下げられた。


「どういうことか説明してくれるか? というか、マツリ! アイツどないしてんねん? 面会に来はった加茂部長からは、町田が面倒見てるって聞いたけど……。」


「えぇ。町田早苗さんが様子を見てくれていました。それで、今回のことなんですが……。」


 小堺は、彼、安倍翔馬から一通り説明を受けた。

 会社の会議で言っていた、ダイダラボッチの意志統率のコントロール役に、マツリが入っていたこと。

 マツリを安倍側に引き込むために、邪魔な小堺を排除したこと。

 また、この方法だと、マツリにかなりの負担がかかること。

 彼、安倍翔馬は、父親の当主である安倍雅貴のやり方に反発し、自らが当主になり実権を掌握したらしい。


「わーっ……。マツリ一人で大事になったな。」


 小堺は頭を掻きながら言った。


「それで? これからどないしますのん?」


「塚の状況ですが……もう予断は許されない状況です。早速、各方面に協力を依頼し、塚の封印強化に当たってます。それで……。」


「ダイダラボッチの対処は、封印を一部解除。同時に、動力源になっている怨霊の破壊を行います。」


「それって……。」


「危険ですよ。しかし、解除と同時に作業を行えばできる。人手を要する作業ですが、安倍主導である必要はどこにもない。」


 安倍翔馬は、車を運転しながら決意めいた強さで言い切った。


 そして、高速に乗り京奈和自動車道に入った。


「え? どこに向かってますの? コレ……。」


 当然会社に向かうと思っていた小堺は、少し慌てた。安倍翔馬はこう答えた。


「滋賀の湖南です。ダイダラボッチの封印場所に……。ご存知でしょうが、昨日未明からの地震は――――。」


 ダイダラボッチか――――。


 小堺は肩を落とした。


 そして、現場には厚生労働省や宮内庁、地方委託会社の社員が現場で既に事に当たっていた。そして安倍芳寿医師もそこにいた。

 しかもなんだか白袴姿で、これから何かしらの儀式をしようかという雰囲気だ。


「先生!? 何でここに!?」


 小堺が尋ねると、


「実は……神様をこれから探そうかと思いまして……。」


「神様?? 翔馬……君? さん?」


 小堺は翔馬に訊ねた。


「あぁ。君でいいです。(年下だし……。)神様はもしもの時のバックアップで……、天狗から聞いたのですが、道満の名を出せば、手を貸してくれる女神がいるそうです。」


「……。それ、呼んで大丈夫?」


 小堺はギクッとした。

 蘆屋道満は当然故人である。

 それに、御霊を持ってるマツリに何をするか分からない……。というか、マツリが女だからと怒り狂うかもしれない。


「えぇ。精度の高い人形は用意できますから。」


「はぁ……。」


 小堺はなんだか不安を拭えないまま、現場班と合流し、加茂部長の指示の下、怨霊の破壊作業に当たることになった。


「小堺さん!!」


 町田が小堺に駆け寄った。


「心配しましたよ!! もう大丈夫なんですね!? あ、マツリちゃんは……まだ……。」


「そうか。すまんな。面倒かけたわ……。」


 小堺はグッと拳を握った。

 しかし、


「町田。今回、気ぃ抜かれへん。わしも久しぶりに気張らなアカンで。」


 小堺は数珠を巻き付けた手をゴキゴキ鳴らした。









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