第39話 息子の反旗

 ダイダラボッチ出現3日前。

 天狗は夜明け頃、小堺の元に戻ってきた。


「安倍芳寿とやらに会ってきたぞ!」


「ほんまか。おおきに!」


「うむ。最高のたいみんぐ……と、申しておった。」


「最高のタイミング……。他には?」


「それだけじゃ。」


 もしかして、天狗で何かしはるんか?


「分った。ほなすまんけど、しばらくは安倍芳寿についてくれるか? その兄チャンにマツリの面倒頼んでんねん。」


「なるほど、そういう事なれば。」


 天狗は納得してまた飛んでいった。


 そして、芳寿は見張りを撒いて、長居公園の木陰で、天狗が接触してくるのを待った。すると、ちょっとしない間に……。


「ここにおったか小僧。最初からわかりやすい場所に居れば良いものを! 先程は随分苦労させられたわいっ!!」


 と、天狗が文句を言いながら舞い降りた。

 芳寿は。悪びれもせず。


「あぁ。悪かったよ。」


 と軽く謝り、天狗は半目を開けて不満を飲み込んだ。芳寿は続けて訊ねた。


「小堺さんは何て?」


「そなたに付けとのことだっ!」


 と嫌々に返事をした。


「それは助かる。では早速―――――――。」



 一方、翔馬は安倍家の分家をはしごしていた。


 次期当主の権限で緊急招集をかけ、父を当主の座から引きずり下ろすために。


 しかし、


 今までかなり独裁的だったとはいえ、実績がある父。信頼の厚さが違う。


 それでも今やらないと……!!


 叔父の家に向う道中の車内で、翔馬は不安気に手をギュッと組み合わせた。

 やがて車が叔父の安倍利明あべとしあきの家につくと、


「久しぶりだね。翔馬君。」


 叔父が笑顔で出迎えた。

 家に通され、席につくと、


「翔馬君も決心ついたんだね。逃げた僕が言うのも何だが……。」


「えぇ。まぁ。今回は……―――――。」


 翔馬が話を切り出そうとしたとき、


「芳寿君は……。」


 と、話を遮った。


「どうして君につくと決心したんだい?」


 と、じっと翔馬を見つめ問いかけた。


「今回、事に当たるに際して、コントロールの実権を握る術師を、3名配置するという話でした。その内1名に関してなんですが、元々安倍の人間ではありません。ですが、その方なしでダイダラボッチを支配下に置くことは難しい。無理に身柄を押さえて、協力させても、うまく行かないかと……。」


「なるほど、プライドを捨てても、よそに協力を仰いでことにかかったほうが良いと? それだけかい?」


「いえ……。その芳寿兄さんは彼女に実際会ったようです。」


「ほう……。」


「能力を奪うことも考えたようですが、彼女を実際見て、手に負えないと、実感したのだそうです。」


「そうか……。ふぅ、彼も……“安倍”の外にも世界があることを知ったんだね。」


「……正直、僕が一番驚いてます。恨まれてると、思ってましたし……。」


「まぁ、恨んでないことないと思うけど……、いつまでも、ママが中心に世界が回ってる子供じゃないってことだよ。」


「……。耳が痛いです。僕は、優柔不断過ぎましたかね?」


「いいや。真面目すぎたんだ。やっぱり、君は兄さんの子だよ。」


「え?」


 びっくりして翔馬は顔をあげた。


「真面目だったよ。だから、家から逃げたい反面、家を強く大きくしてたんだ。だから、何があろうと言い訳しなかったろ? 兄さんは。」


 確かに。

 自分勝手だと、責めたことは幾度もある。

 しかし、

 言い訳は無かった。

 厚顔無恥にも開き直っているのだろうと思っていたが……。


 そうか、逃げたかったのか……。

 あの人も……。


「まぁ、こんな堂々巡りはそろそろ終わりにしないとね?」


 叔父は立ち上がった。


「当主になるんだろ? 緊急招集をかけないと。」


「はいっ。」


 翔馬は叔父の後を追った。


 その頃、芳寿は、僧正坊の御前に正座していた。

 僧正坊は、難しい顔をしている。

 そして、


「ならぬ。」


「あなた方の縄張りも、どうなるかわかりません。“神殺し”をする代物かもしれないのにですか!?」


「それは“人間の考え”じゃ。それに、マツリ殿のことは手前等の事ゆえ、私事で門を叩くわけにゆかぬ。」


「しかし!」


「ならぬものはならんっ!!!」


 僧正坊が喝を飛ばした。

 翔馬は鼓膜が破れるかと思った。

 しかし、耳を抑える翔馬に。


「だが……一柱だけおったな……。」


「道満と聞けば……、前後不覚の入れ込みような女神が……。」






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