第37話 安倍家との攻防

 小堺逮捕――――。

 土御門高能は頭を抱えた。

 そうなると、マツリへの接触は極力控えなければならない。


 こんな強引な手法で、彼女の身元を抑えにかかったということは、さっきの会議で検討しているとしていた手法、少なくともコントローラー役の生きた魂魄の依代は、彼女が含まれており、負担の大部分を、背負わせる魂胆があるのではないだろうか?


 イヤ、むしろ、彼女抜きでは不可能。


 手段を選ばない安倍雅貴らしいやり方ではある。


 ふと視線を上げると、背の低い女性が廊下でしゃがみこんでいる。


 彼女……、さっき小堺さんと話していた。知り合いか?


「大丈夫ですか?」


「えぇ。すみません。すぐ業務に戻ります。」


「もしかして……小堺さんのお知り合いで?」


 女性は無言で、うなずいた。

 小堺が警察に連れて行かれたのが大変にショックなようだ。


「そうですか。」


 と、言ったその隙に高能は人形ひとがたを飛ばし、彼女のジャケットのポケットに忍ばせた。


 人形には、高能のプライベートのメアドと“小堺のことで相談したい”旨を書いておいた。


 そして、朝の6時頃、高能の自宅パソコンにメールが入っていた。

 文面には、


 “おはようございます。

 私、(有)土師清掃 奈良支店

 奈良担当の町田早苗と申します。

 小堺の件でのご相談と伺いましたが、

 どのような内容でしょうか?”


 と、あり、高能はすぐ返事を送った。


 “お忙しい中メールを下さり、ありがとうございます。

 ご相談ですが、小堺さんが養育をしている少女をご存知でしょうか?”


 “マツリちゃんですね?

 存じております。”

 

 “実は彼女は今、私の知り合いの病院に隠しておりまして、様態は別状無いのですが、ここ2日ずっと眠り続けています。”


 “眠り続けている?

 隠している?

 それは一体どういった状態ですか?”


 “まず、斎藤永愛さんは蘆屋道満に完全憑依されている状態です。ですので、眠り続けているのは、彼の魂魄と彼女魂魄が、衝突を起こした際にあらわれた症状かと思われます。

 安倍家は現在、斎藤永愛に強い関心を持っています。なので、すぐ身柄を抑えられないように隠しました。”


 彼女は相当に驚いたのだろうしばらく返事がなかった。

 そして、


 “小堺さんは、虐待なんてしてないですよね?”


 “正確なことは不明です。しかし、今回、任意同行という形でしたので、明確な証拠はない。疑いがある。というだけですから、釈放される可能性もあります。

 また、確たる証拠がなくとも、調べる余地ありという判断がなされた場合、任意同行を求められることもあります。”

 

 “判断材料が安倍家であると?”


 “その可能性は否定できません。”


 “どうして安倍家はそこまでして?”


 “先程の会議で説明ありました通り、ダイダラボッチは、生者の魂魄を使用して意志統率と制御を行うとあったと思います。その当時の魂魄は蘆屋道満のものでした。それを操作してたのが、彼の父親。

 ダイダラボッチは、蘆屋道満無くして永続的な封印及び、折伏浄化は不可能。

 ですから、安倍家主体で事案の解決を図るには斎藤永愛さんの保護者は邪魔になるということです。”


 “状況は解りました。

 それで、私に、何を求めてらっしゃるのですか?”


 “入院している、斎藤永愛さんの様子の観察と、お世話を。我々は迂闊に近づけませんので。”


 “承知いたしました。

 ご連絡はこのアドレスでいいですか?”


 “結構です。”


 “では、また。”


 町田はパソコンを閉じると、ベッドに転がった。

 まさか、水面下でそんなえらいことになって、しかも、小堺が巻きこれているなんて……。

 町田としても、是非とも小堺のことは助けたい。

 最初は顔怖くてビビったけど、あのバカ部長を見張ってくれたし、異動願も快く引き受けてくれた。


 よし! 頑張ろう!


 町田は決意を胸に布団を被った。少し寝てマツリの病院に行くのだ。


 そして、その頃小堺は留置所にいた。

 任意同行ということだったので、噂に聞く、自白強要や、脅迫まがいな取り調べはされなかったものの。齢食った刑事には気に入らない目つきで睨まれた。

 全く持って理不尽である。


 そして、留置所の狭い窓から


「小堺健司とはお主のことか?」


 と、渋い声で話しかけられた。

 バッと振り返ると、長い鼻を鉄格子から、突き出してこちらを覗く天狗が……。

 小堺は、見張りがいないのを確認してから話しかけた。


「何で天狗がワシを訪ねて来たんや?」


「猫魈殿が訪ねてこられた際、ダイダラボッチの話を聞き申した。マツリ殿がおらぬときは、小堺健司なる人間の男を探すと良いと聞き、馳せ参じたのじゃ。」


「……。あぁ。おおきに。」


 小堺は内心少々がっかりした。

 天狗では、外とのやり取りをする連絡係は不可能である。しかし……、

 小堺がズボンのポケットに、人形ひとがたとペンを入れていたことに気づいた。


 コレや!!


 小堺は人形にペンで何事かサラサラ書き、人形に息を吹き込み、天狗に手渡した。


「えぇか。コレを外に飛ばしてくれ。そんで、これが飛んでった後追うて、着いた人間の顔と名前覚えといてくれ!」


「ふむ。承知仕った。」


 天狗は人形を受け取るとサッと飛んでいった。


「頼むで!!」


 祈る気持ちで小堺は天狗を見送った。








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