第36話 安倍家の思惑
ダイダラボッチ出現5日前〜4日前。
小堺は、マツリを病院に入院させてそのまま職場へと向かった。
出社するやいなや、加茂部長に呼び出され、一番広い会議室に呼ばれた。そこには厚生労働省の環境調整維持課や、宮内庁の儀式礼典課特定現場担当室の役人数名に、近畿の地方委託会社数社と――――、
安倍家の人間が来ていた。
場の空気が張り詰めている。
この感じ、ダイダラボッチにまつわることに間違いない。
そして、加茂部長が
「全員揃いましたところで、会議を始めたいと思います。今回の議題は“対ダイダラボッチ対策”に関してです。今回、安倍家が代々封じてきたマル対なので、安倍家主導で、我々は補佐に当たります。では……。」
加茂部長は安倍家から来ている、
「お集まりいただいた皆様とは面識のある方が多いので、挨拶は省略させていただきます。先ず……、“ダイダラボッチ”の説明から入らせていただきます。」
安倍聡は手元のパソコンを操作して、スクリーンに資料を映し出した。
スクリーンには当時の古文書と、清明が遺したとされるダイダラボッチの絵(黒い塊に赤い目がついてる。)、それを元にしたCG画像。
「こちらは安倍晴明公自らが残した記録と、それを元に再現した再現図です。記録によると、“身の丈、比叡山を二つ重ねつるなり。肩幅、五町はあり。”と、記されています。また、外見的特徴は、黒い肌に、赤い目、大きな口、頭は大きく、移動は四つん這いで移動する。
そして、当時、朝庭に対して恨みを抱いていた、物部氏の末孫による呪詛により、作製されたもので、生贄を複数人使用して呪物体を作製、複数の怨霊を動力源に使用、統制するために、生きた人間の魂魄を依代に使ったものが“ダイダラボッチ”です。ここまでで、なにか質問は?」
“蘆屋道満”のことは伏せたな? と小堺は思った。マツリは不幸中の幸いなことに、未成年だったため、表立って引っ張り出すことはしたくなかったのだろう。
一通り質疑応答が終わって、話は具体的な対策に移った。
「以前、清明が行った封印方法は、動力源になっている魂魄を一つ一つ封印するというもので、かなり危険な作業な上、執行側もかなりの技量が必要です。まさに、清明公だからできた封印方法でしょう。ですから、今回は、封印状態で新たな統制装置の接続設置を行い、動力源の破壊浄化を検討しています。」
「統制装置!?」
成功すれば確かに確実な方法と言えよう。しかし、どうやって!?
会議室内はざわめいた。
「スパーコンピュター数台を用いて動力源の意志を解析、術師22名で怨霊の意志をジャックし、コントローラー役を担う術師3名が意志の統率を行います。ですから、皆様には、もしもの時の避難誘導と、接続、意志統制完了までの間の封印強化と結界の強化をお願いします。」
そして、日付変わって会議終了。
小堺は封印強化の班になった。
会議室を出ると、背の低い前髪パッツンの女性が小堺のところへ走り寄った。
「小堺さん! お元気ですか?」
「おぉ! 町田! 元気か? 久しぶりやな?」
「ハイ! お陰様で! その節は本当にお世話になりました。小堺さんがいなかったらどうなってたか……。」
「そんなモン気にすな! えぇ年こいて鼻の下伸ばすアホが具合悪いねん。」
現在、奈良の支社に務める、町田早苗は元小堺の部下である。
背丈の低い町田は、当時あの
結局、業務に支障が出たので移動ということになったのだ。
「それにしても、驚きましたね? スパコン使ったり、呪物体にコントローラーつけるってことでしょう? なんかもうアレみたいですよね! エヴァ!」
「あぁー。まぁ、そないに良い子チャンで、言う事聞いてくれる保証はあらへんけどな。」
「そんなことないですよ。エヴァだって暴走するですから。」
「はぁー……。ワシそんな怖いモンに近づきとうない。」
そんな無駄話をしていると、
「小堺君。ちょっと……。」
と、加茂部長から呼び出された。その横には、安倍聡がいる。行くと――――。
ガチャッ……――――――――。
「小堺健司。0時47分。児童虐待の疑いで任意同行求めます。」
「いや……待ってくださいよ! どういうことですの!?」
小堺は、人生初のパトカーに乗せられた。
それを苦々しげに加茂雅史が見送った。隣には安倍聡が立っている。加茂は言った。
「随分強引なことを……。後悔しますよ?」
すると、安倍聡は口だけ笑顔を作って
「ウチは何もしてませんよ。まだ起訴にまで至ってないんですから……大丈夫なんじゃないですか?」
と言ってデスクに戻っていった。
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