第29話 道満

 京の都の門の外、大きな道からちょっと入れば、行き場を失った亡霊のような連中がゴロゴロいる。

 中には鬼も混ざってて、昼間のうちから人間獲物を食い散らかしている。


「どうせ喰うなら、栄養回ってるお貴族にすりゃいいのに……。」


「旦那ぁ……。」


 物乞いに引き止められた。


「帰りに銭落としてやらァ、今ぁイワシの頭ぽっちしかねぇ。」


 イワシの頭を物乞いにやった。

 それでも物乞いは、ぽいっと口に入れガリゴリと噛んだ。


 でかい門を検非違使に睨まれながら通る。


 これから貴族のお遊びに付き合うのだ。


 何でも箱の中身を当てるのだとか。


 デカい家に招かれて、体を井戸端で洗わされて、ゴソゴソする着物を着て、


 安倍晴明とかいうガキと競うのだそうだ。


「めんどくせぇ。」


 そして、


「中身は……ネズミにございます。」


 よ~し。

 

 じゃぁ、帰るか。

 着物を売って銭に換えよう。

 そう思って意気揚々帰ろうとしたら、晴明とやらに引き止められた。


「では、私の弟子として、お迎えいたそう。」


「あ!? 何じゃそら?? 聞いてねぇぞ!!」


「おや? 伝え忘れたようですな? 皆様にはもう話してしまいましたのに……。」


 クソガキっ💢💢💢


 これが晴明との出会いだ――――。


「何勝手に語っとんねん。ジジイ。」


 マツリは片眉を下げ、げんなりと目の前の荒野の立つ初老の男を眺めた。

 男はボロボロの着物を着て、ボサボサの髪を適当に一つにまとめてる。


「つれねぇな。お前、俺の血を引いたガキなんだろう? まぁ……可愛げのないところは、そっくりだな。間違いなく、俺の子だ。運が悪かったな?」


「うるさいわっ! 晴明のクソに捕まった間抜けがっ!」


「痛いとこ突くんじゃねぇよ。死にかけの虫の息でやられたんだ……。勘弁しろ。」


「で? 何の用があって出てきたんや?」


「蘆屋道満―――。」


 マツリは初老の男を睨んだ。


「あぁ――。ダイダラボッチのこと、聞いただろ?」


 すると、マツリは小馬鹿にするような口調で言った。


「一族の再興かなんか知らんけど ……、材料にされてんてなぁ……。先祖代々、クズ親が伝統かいな……いらん伝統やわぁ。」


「あぁ。悲しいかなクズだなぁ……。大体、御祭神もろとも国滅ぼして再興なんて……不毛だろうに――――。」


 と道満は荒野の果を遠い目で見つめながら言った。


「…………………………………。」


 さぁっと一陣の風が吹いた。


 道満はマツリを見つめて言った。


「正直……。一回滅んじまえばいいと思った。だが、――――。」


 何を黙っているのか? マツリは目をすがめた。


「お前を見てると……捨てたもんじゃねぇと思えた。癪だが……、お前に会えたことだけは、晴明に感謝してる――。」


「キモっ!」


「ちっ! 可愛くねぇ! 俺に似やがって!」


「えぇ話風にまとめて、カッコつけてるところがキモイ。」


「駄目押しすんじゃねぇ!! 俺だって傷つくぞ!?」


「ウェッ……!」


「コイツ……💢」


「まぁ、何だ。俺たちゃ愚かでどうしようもねぇよぉ……だからこそ、面白れぇんだなぁ……。」


「ヨカッタネ。」


「テメェ……💢」


「あぁ! 大事なこと言い忘れるとこだったぜ。」


「あぁ?」


「ダイダラボッチの中に、子供も頃の俺の魂が入ってる。そいつが核だ。迎えに行ってやってくれ――――……。」


 …………―――――――――――――――。

 目が覚めた。朝だ。


 寒い。


 そりゃもう冬やしな。


 テレビつけた。


 クリスマス特集やってる。


 ボーッと見ながら、夢に出てきた道満が、最後に言ったことを思い出した。


『迎えに行ってやってくれ――――……。』


 決心なんて大仰なものじゃない。


「行こか―――。迎えに……。」


 だって、それは“自分”だから……。


 真っ暗な部屋で、誰も助けない場所で、

 ひたすら小さくなって、

 それでも、

 迎えを待っていた“自分”だから――。












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