第28話 ただいま

 安倍家本家へ連行されたあと、マツリと小堺は家に送ってもらった。


 アパートに帰ると


「マツリ! 惣菜屋で焼きそばうて来い!」


 と、小堺に小銭を渡され、惣菜屋には歩いて行った。

 道中、


「マツリ。役人共が大人しゅうならへんな?」


 と、オカンに声かけられた。


「オカン……。」


 マツリと猫魈は公園に移動した。ブランコに座って、ゆらゆらしながら今までのことを話した。


「ほーん……。道満な。それがホンマやったら、その辺の中堅妖怪まで、みーんなひっくり返ってまうな? 泡吹くヤツまで出そうや。」


 と言ってクククッと猫魈は笑った。


「道満って強いの?」


「あぁ。あれは異常やったな。」


「異常?」


「せや。アイツは大のお貴族嫌いで、年がら年中根無し草やった男でな、祟ろうが呪うが、毒を喰らわば皿までを体現したような、滅茶苦茶な奴やった……。なるほど、納得したわ。物部の末孫で、アレ自体が呪いの材料にされとったんか……。異常なわけやな。ワテはお貴族大好きやけどなぁ~。クククッ……。」


「えぇーっ。ウチ安倍はキライや〜。」


「あぁ? 安倍ぇ? 晴明のガキ共か? あれ等は晴明の代から性悪の根性悪の二枚舌やど? 数に入れるもんやない。」


「しかし……晴明の根性悪に捕まったんか道満は……。呪いに終わって呪いに始まる男やの。」


 猫魈はクククッと笑いが止められない。


「笑い事やないわっ!」


「しかし……、ダイダラボッチとは……またどえらいなぁ。」


「見たことあるん?」


「おぉ。遠目でな。晴明と道満が封印しとったな。」


「へぇ。」


「誰ぞ中国人の金持ちにでも取り憑こうかの……。国替えや国替え!」


「共産党のボケ共まず首絞めにかからなアカンで? 連中、身の程知らんさかい、あちこちでどえろう怒らせとるらしいわ。」


「あぁ……。龍神に発破かけられて、斗牛がサボりに来とったな? 龍神に首根っこ咥えられて帰ってたわ……。まぁ、身の程知らずは、どこも似たかよったかや。最近は特にな。」


「ふーん……。」


「で? お前はどないすんねん?」


 猫魈の質問の意味、マツリは解ってる。

 マツリはどうしたって人間だから、猫魈のように身軽ではない。

 だから、ついて行くなら、人間を辞めないといけない。


 人間か妖怪か―――――。



「わからん。」


 猫魈は、ため息ついて言った。


「まぁ、えぇ。餞別じゃ。腰の重い神様連中に脅しだけはかけて日本離れるわ。お前も好きにせぇ。」


「うん。」


 猫魈は、茂みに飛び込み姿を消した。

 マツリは焼きそば下げてアパートに戻った。


「おかえり。」


「ただいま。」


「あ!?」


 小堺は驚いてマツリを見た。


「何よ?」


「いやだって……お前……。」


 そうか…………。

 “おかえり”とか、“いってらっしゃい”の返事したんは初めてやったな――。

 マツリは今更ながら気づいた。





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