第24話 ダイダラボッチ
「な……なんじゃそら。イミ解らんわ……。」
小堺は混乱した。
そもそも、蘆屋道満は千年前に生ききていた、ただの人間のはず……。
人間の魂を摩耗させず、千年も保存可能だろうか?
というか、公式じゃ蘆屋道満は安倍晴明に下った弟子だったはず……。
弟子ごときに泰山府君祭だなど大袈裟すぎる。
「な……何でそんな、安倍晴明は大仰なことしたんです? 第一、蘆屋道満は弟子やったんとちゃうんですか? そもそも、人間ごときの魂を千年も保存なんて、ようせんでしょう? どういうことです?」
小堺は安倍雅貴に詰め寄った。すると、
「そうですね。こちらも、ご納得いただける回答を用意しなければいけませんね。」
仕方ない、と、諦めるように首を振り慎重に話し始めた。
「蘆屋道満は、弟子などではありませんよ。晴明公が、なんとしても、人間側に引き留めようとしていた人物です。」
「人間側……。それって……。」
どういう意味か――――?
マツリのように、妖怪の手で育てれたということなのか?
「道満は、彼自体、特殊な血筋でした。彼は当時残っていた最も血の濃い、物部氏の直系だった。」
「物部氏? 教科書で出てくる……あの物部氏ですか?」
思わぬ名である。
物部氏が特殊だなんて、聞いたこともない。
ただ権力闘争に破れた、昔の貴族という認識しかない。
「えぇ。……物部氏は特殊な血筋でした。我がご先祖清明公もそのルーツを持っていた。聞いたのは初めてでしょう? この事は門外不出でしたから……。しかし、そうも言っていられない。」
「特殊言うんは……何が?」
「彼等は、血族に異能の者を集めていた。そうして、血族に異能の力を溜め込み、力を持った。それにより栄えた一族でしたが、彼等は力を持ちすぎてしまったのです。恐れ多くも、天照大神まで脅かす程に……。だから粛清された。蘆屋道満……彼は、物部氏の末孫で、一族再興の悲願を成し遂げるための、贄でもあった。」
「贄て、本人生きてたでしょ? 術式が不完全やったってことですか?」
「そう。“呪い”は完成しなかった。」
「彼らは、何を作ろうと思っていたと思います?」
「何……?」
「ダイダラボッチ。」
「はっ……!?」
「ダイダラボッチですよ。彼等は日本を滅ぼそうとしていた。」
「な……。そんな……アホな……。」
小堺は腰を抜かしそうになった。
と、言うことは……。
「だっ……ダイダラボッチを、完全に滅っせられんかったんですね!?」
「少し違います。」
「え?」
「未完成なのですよ。道満はその材料に使われ……呪いの完成前に逃げ延びた。しかし、呪いがなくなったわけではない。呪いはずっと続いていた。そして、晴明塚と道満塚でそれを抑えていた。しかし……。」
安倍雅貴は言い淀んだが、言わなくてももう解る。
「抑えられへんと……ダイダラボッチを滅せられるんは――――――。」
「蘆屋道満。ただ、一人です。」
安倍雅貴はそう言って、マツリを見た。
マツリは、不機嫌に黙った。
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