第23話 ファッキン晴明

 目覚め最悪。

 晴明とかいうクソジジイのせいで……。


 あの箱、どういう仕掛けか知らんけど……。

 多分、血筋に蘆屋道満の魂を乗っけて、その子孫を依代に利用するものだったのだろう。


 最悪ついでに今、安倍家本家へドナドナ……。

 気分はこれからムショへ放り込まれる囚人。手錠がない代わりに、両脇に眼鏡の生白いオッサンとガタイのいい大学生。

 金塊か札束やったら良かったのに……。


 わかりやすい黒光りのプリウスに乗っけられて、どっかの結婚式場みたいにオシャレな鉄門扉を通って、デッカイ家に連行された。


 一応、小堺のオッサンの随行はお許しが出たけど、権力者相手にどこまで抵抗できるかは、しれたもんだろう。むしろ巻き込まれカワイソーだ。


 無理せんうちにオッサンは帰さなアカンなー。


 そんなことをぼーっと考えながら、マツリは通された部屋の椅子に座らされた。オッサンは隣に腰掛け、あの二人は出て行った。


「オッサン。」


「なんや。」


「帰りぃや。」


「なにアホ抜かしとんねん。」


「アホ言うた方がアホやねんで。」


「小学生か!」


「オッサン。」


「なんや。」


「粉もん食べたい。」


「家帰ったらお好みでも焼くか?」


「うん。 惣菜の焼きそば入れて。」


「あぁ。」


「それにしても……。」


 小堺は部屋を見渡した。

 高そうなチェストに、高そうな絵画に、カーテンまで高そうだ。


「こんなところでする会話やあらへんな。」


 するとマツリがフッと鼻で笑って言った。


「フレンチのディナーのお話でも出来るんか?」


「なんやねん。結局食いもんか。」


 そんなとりとめもない会話をしていると、コンコンっとドアがノックされ、これまたお高そうなスーツを着込んだ、お上品なオッサンが入ってきた。なんでかさっきの大学生も一緒に。


「いきなりこちらまで来ていただいたのは、申し訳なく思ってます。ですが、ことが事なのでどうかご理解いただきたい。」


 偉そうなクソジジイ。

 目つきが嫌いだ。きっと自分達のやることなすこと全部正しいと思っている。

 マツリは心眼で、注意深く思考を読んだ。


 ところが――、

 読めない。


 流石に腐っても安倍。

 ノーガードで来るほど間抜けじゃなかった。


「はじめまして、小堺健司さんと斎藤永愛さんですね? 」


 小堺は


「はい。はじめまして、こちらは私の名刺です。(有)土師清掃の小堺健司言います。」


 と、ヤクザ顔に似合わぬ、リーマンらしい挨拶をして名刺を差し出した。

 すると、これはご丁寧にと、上品なオッサンは名刺を受け取り、とっとと内ポケットの名刺入れに入れ、にこやかに挨拶をした。


「私は安倍家現当主の、安倍あべ雅貴まさたかと申します。こちらよろしければ……。」


 小堺は、安倍雅貴から名刺をもらうと、頂戴しますと、机に出した名刺入れの上に名刺を置いた。すると、安倍雅貴はこう切り出した。


「では、早速ですが、あの箱のことはどこまで?」


「“晴明”と“道満”が揃わな開かんとだけ。」


 小堺が答えた。


「なるほど……。箱の事を少しお話させていただきましょうか……。あの箱ですが、あれは千年前、安倍晴明公が行った、泰山府君祭を完成させるためのモノなのです。」


「た……た泰山府君祭!?」


 小堺は狼狽え名刺入れを落としてしまった。

 スイマセンっと誤り慌てて拾う。

 すると、マツリが言った。


「クソがっ……。泰山府君祭? 血に乗っけて魂縛り付けて、適当な子孫に憑依させるんがか? 晴明ってクソもえぇトコや。本人も子孫もまるった呪とるやないか。えぇ迷惑や。」


 小堺は口の効き方が悪すぎる! とマツリの頭を強引に下げさせた。安倍雅貴は目をすがめ


「キミ……。やはりなんの異能もないだなんて嘘だったんだね?」


 と言った。

 やはり誤魔化しきれていなかった。

 小堺は、泰山府君祭などと、幻どころか伝説のような単語を前にクラクラして、なんとか整理しようと必死だった。そして、


「えぇ……と。話がイマイチ飲み込めんで……スンマセンけど、泰山府君祭は蘆屋道満のためにおこのうったちゅうことですか?」


「えぇ。そうです。」


「そんなこと……――――――。」


 出来るんですか?? と、信じられない気持ちで、マツリを見た。


 マツリは、


「いてる感じはする。まだ、断片的で、完全に馴染んどらんけど……。」


 と言った。

 小堺は、驚きを通り越してあ然とした。


「な……なんじゃそら。イミ解らんわ……。」





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