第22話 道満

 箱が開いた。


 どうして? なぜ? 理由は全く解らないが、この状況マツリとって全くよろしくない。


「キミは何者だ?」


 土御門はマツリを凝視し、マツリはイラだって吐き捨てた。


「学生です。」


 すると、土御門は眼鏡を押し上げ再度尋ねた。


「聞き方を変えよう。キミはコレが何か知っていたか?」


「知りませんけど……。」


「土御門さん! 待ってください!!」


 ここで小堺が声をあげた。


「なんですのん、この箱! マツリが開けたからって、なんか問題あるんですか!!」


「えぇ……。この箱。“晴明”と“道満”が揃わねば開かない。」


「せ……晴明と道満!?」


 思わぬビックネームに小堺は驚いた。


「どういうことですのん!? 血筋の人間がっちゅうことですか?」


「申し訳ありませんが、私は分家の人間なのでそれ以上のことは……。しかし……斎藤永愛さんは、このまま一緒に本家へ来てもらうことになると思います。」


「ちょっ……それはっ! いくらなんでも性急なんとちゃいますか!?」


 小堺と土御門は睨み合った。

 そして、


「そうですね。未成年の少女を、無理に連れて行くわけにはいきませんし……。本家への報告は遅らせます。ただし、一週間が限度だと思ってください。」


「解りました。」


 小堺はマツリと一緒に会議室を出た。


「マツリ……。」


「オカンのところに行く。」


「ちょっと待て今は……!」


「誤魔化しきれんのやろ?」


 小堺は押し黙った。すると……、


『千年経ってもロクでもねぇな人間は……。』


 マツリの頭の中で誰かが言った。

 それは、誰の声か知らないが、非常に馴染みがあるような気がした。


「マツリ……。それ、一体誰が言うてることや?」


 小堺は困惑の表情マツリに向けた。

 マツリも驚いた。

 頭の中だけで響いていると思ったら、口からも出てきていた。


 一体誰が?


 イヤ違う。喋ってのは間違いなく俺だ。


 俺? だと……。 誰だ?


 俺は、


 マツリは混乱してその場でしゃがんだ。


『道満――。』


 若い男の声が呼びかける。


 違う! ウチはマツリや!!


「おい! マツリ! しっかりせぇよ!!」


 小堺がマツリの肩を掴んだ。

 オッサンを呼びたいのに……喉まで出かかってるのに、陸に上がった魚のように息がしづらい。


『道満――。』


 声の主が薄っすらと脳裏に浮かぶ。


「マツリ!!」


 オッサンの声が遠い。


『道満。お前、もそっと人間に興味を持て。』


 白っぽい狩衣を着た困り顔の青年が言った。


『クソガキがっ――!』


『よくもっ……!! 俺を縛り付けたなっ!!!?? 晴明っ!!!!!』


 マツリはガバっと起き上がり、地の底から這い出るように怒鳴った。


 目の前には小堺のオッサン、さっきの生白い役人がいる。


 その時、マツリはなんとなく解った。


 マツリは、千年の時を超え、蘆屋道満を現世に縛り付けるための……依代なのだ、と――。



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