第20話 凶事の徴
土御門高能は先日起こった天狗騒動で大阪まで出張に出ていたが、目的が変わった。
安倍本家から連絡があり、
“晴明塚・道満塚に凶事の
というのである。
対外的には、塚の封印が緩んだ程度に伝え、可及的速やかに原因の特定をしろ。と、いうものだった。
それで、送られた文献資料の解析を元に、封印と共に伝えられている文章を、分家筋を中心にしらみ潰しに当たるという、かなり手間を要する作業をする羽目となった。
何でもその文章、封印と関係するものらしいのだが、大昔の内輪もめで紛失した代物だという。いざ事が起こるまで、放置していたのだろう。
まぁ、千年も前のお伽噺に近い伝承だ。
無理もない。
が、
それを引っ張り出してまで調査させようというのだから、穏当ではない。
何を隠しているやら……。
土御門はリストアップした紙を見て
“全部、見て回るのか……。”
と、肩を落とした。
京都本家にも応援を頼もう、それくらい許されていいはずだ。
そうして、寝ずの覚悟を決めて挑んだ作業だったが、思わぬ所で、ヒットした。
新田の分家―――。
新田自体は今も安倍の傘下ではあるが、能力の発現を認められなかった者は、一般人として家とは縁を切る。
その家もニ代前に新田家から離れていた。
期待もせず訪ねて行ったが、
その時、そこの家の娘が挙動不審だった。
母親が自宅倉庫を確認しようとすると、何かにつけワガママを言って、妨害しているように見えた。
高校生にもなって、好きなアイスぐらい自分で買いに行くだろう。それを……。
「お母さん! 行ってぇよ! 倉庫探さなアカンのやろ? そんなんすぐ出ぇへんてっ!!」
客がいる前で言うだろうか?
土御門は試しに、例の文章が収められていたらしい箱の図を彼女に見せた。
すると、
明らかに取り乱した。
それで彼女の調査をしてみると、以前、質屋に古い漆塗りの箱を持ち込んでいたことが判明した。
それをネタに彼女を尋問したところ、斎藤永愛に行き着いた。
箱を斎藤永愛に渡したらしいのだ。
そして、彼女を、斎藤永愛を調べてみたが……
かなりのいわくつきであった。
今現在、小堺健治が後見人となって、一緒に暮らしているが、その前は斎藤佳代子という、元恐山の巫女の高齢女性の養子になっていた。
そして、実の母、岸田亜美、現在38歳は、刑務所にいる。
罪状は殺人と保険金詐取未遂。
恋人と共謀して、我が子を保険金詐取のために殺そうとしたが、恋人と仲違いし、口論の末殺害。
当時4歳だった岸田永愛(現在、斎藤永愛)は行方不明だったが、5年半経って発見。小堺健司によって保護されていた。
このことは、特殊対応事案に絡む事件だったので、マスコミ発表はされなかった。
報告書では行方不明になっていた5年半、彼女は猫魈に拉致されていたらしく、奇跡的に無事だったらしい。
この、どうににも普通ではない経歴の彼女の元に箱が行き着いたのは……、
偶然だろうか――――?
そして、これから彼女と面談する。
場所は(有)土師清掃の会議室。
日もすっかり暮れた6時過ぎ、コンコンとドアがノックされ
「小堺です。本人連れてきましたんで入ります。」
「どうぞ。」
小堺のに連れられて、制服姿の少女が入ってきた。
不貞腐れたように渋々入ってきた少女は、パイプ椅子に腰掛けると
「どうも……。」
と、無愛想に挨拶した。
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