第19話 晴明の予言

 国から監査がやって来て早5日。

 彼等もあと2日程で帰る。

 ここまで、なんとか誤魔化しきった小堺は、少し安心していた。

 ところが、土御門高能が……。


「業務のご負担とは存じますが、監査が3日程延びることになりました。」


 “何やとー!? まだ神経すり減らさなあかんのか!? 堪忍してくれぇ!!!”


 と、小堺は心の中で叫んだ。


「いえ、こちらも手伝てつどうていただいて助かります……。」


 と、裏腹なことを言いながら。


「因みにですけど、伸びた理由って……?」


 小堺は何でもない振りをしながら訊ねた。


「えぇ。当家に関わる事ですが、晴明塚と道満塚に封印の緩みが出たらしいので……。」


 晴明塚と道満塚、一般的に知られているのは兵庫県の佐用町にあるものだが……。

 安倍家とその分家が管理している塚が、近畿各所と、本家が直接管理しているのものがある。


 それらは、“晴明の予言”をもとに作られた大規模封印装置の機構の一部だ。


 “晴明の予言”


 業界では有名な話だが……平安時代、名を馳せた陰陽師の大家、安倍晴明。

 彼は、この世を去る前に予言を残した。


 “千年の年月を経て大禍が襲い来る。”


 と。

 その予言を信じて、安倍家は平安の世から代々この封印を守ってきた。いわば、安倍家のシンボルである。


 この平安時代からある謎の塚。

 幾度も調査が入ったが、何らかのしゅがかけられていて、かなりの規模であることは判明したので、今でも要警戒くらいには意識されている。


 しかし――――、


「分家の土御門さんは、動かなしゃぁない思いますけど、よそ者の手は本家が嫌がらはるでしょう?」


「えぇ。まぁ。しかし、全く排除して動けば何かあったときに大変でしょう?」


「そうですね。」


 なるほど、土御門高能もなかなかな苦労人らしい……。


 この業界は古い家が既得権益を独占しており、何かしらの案件が発生したら、各家で抱え込もうとする。

 失敗した場合、取り返しの付かない事態となるが、老舗の安倍家は今まで失敗がない。

 それだけ人材育成に血道を上げてきた家でもあるのだ。


 そんな家だからこそ、大事の案件は他所に手を出されたくない。


 家のプライドと地位を守るために……。


 土御門高能も、それに散々振り回されてきた人間の一人なのだろう。


「ほな。土御門さんはしばらく、一般業務から離れるっちゅう事でよろしいんですね?」


「えぇ。それから、安倍の者がその内来ると思うので、ご協力いただければと……。」


「あぁ。まぁ、そら構いませんけど。」


 国の次は安倍家。

 マツリが見つかれば大騒ぎである。

 そして、数日後、


「小堺さん。」


 小堺は土御門に呼ばれた。


「はい?」


「同居されてる斎藤永愛さんに、お話を伺いたいのですが?」


「え。マツリにですか?」


 小堺の心臓は、口から飛び出るほどビクッとなったが、平常心を装って返事した。


「? どうかしましたか?」


「い、いえ。」














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