第17話 お国のポチ公

 (有)土師清掃に国からお役人がやってきた。


 国にも一応特殊事案を扱う部署があって、祭典礼典(神様へのご機嫌伺い)の専門は宮内庁、巷で起こるその他事案は厚生労働省の役人に振られている。

 だから、普段監査でくるのは厚労省のお役人なのだが……。

 今回は、ランク分けA+++同士の特殊対応対象(妖怪)が接触したので、宮内庁からもやって来ているのだ。


 因みにだが、特殊対応対象(神様、妖怪、等)のランク分けだが、A〜Bの三段階とその上のSクラスで、それぞれの段階ごとに+が3つまでつく。(ただし、Sクラスは例外で計り知れない、と言うか、天井知らず。)

 A+++というのは、下手な地方の土地神よりランクが上で、一応ということになるので、宮内庁からも人がやって来たのだ。


 宮内庁から派遣されてきた土御門つちみかど高能たかよしから、小堺は神経質に睨まれている。


「なんですかこの報告書……。天狗が群れを引き連れて、あれだけの騒ぎを起こしたっていうのに……。原因不明? 巫山戯てますね?」


「えろぅスイマセン……。」


 小堺は頭を下げた。

 ご説ご最もではあるが、こちらとしてはマツリを隠しているのだ。不本意極まりないが、無能のふりをするしかない。

 土御門は半目で小堺を見やり、フゥとため息を付き、ピシャリと言った。


「もういいです。」


 小堺はこの宮内庁のお役人が苦手である。

 なぜなら、同じ宮内庁出身だが、デスクで縮こまっている上司バカとはわけが違う。大変優秀なのだ。

 だから、鈍臭いふりをして、絶妙に彼の仕事を邪魔しなければならないのだが……。


「小堺さん。ここ直しておきましたので。」


「あ。ありがとうございます。」


 このように、とても仕事が早い。

 足を引っ張るにしても限界があるのに……。

 帰ったら、マツリにもう一回釘を差さねばならない。

 その日、家に帰って家事をしながら、マツリが起きてくるのを待った。


「オハヨ……。」


 ダルダルのトレーナーを着たマツリが起きてきた。


「おぅ……。お早うさん。マツリ!」


「あぁ?」


「こないだ言うたことやけど……。」


「大人しいしてるで? ご不満でも?」


「そう突っかからんでもエェやろ! 今回、きょった役人が厄介や。冗談抜きで真面目に高校生やっとれよ!?」


「ハイハイ。」


「マツリ!!」


「ウザっ!」


 マツリは自室に戻ってしまった。

 小堺はマツリの部屋の前でため息を吐いた。


 一方、マツリは、自室に入ると制服に着替えだした。

 シャツにセーター、スカート、ソックス、ブレザー……。

 リュックを片手で引っ張った時、カランっと剥げかかった漆の箱が転がった。

 ソレを見てマツリは思いっきり顔をしかめた。


 五芒星の蒔絵がついたその箱……。


「腹立つわ……。」


 マツリは乱暴に箱を壁に投げつけるも、壊れる気配はない。それどころか、蓋すら開かない。

 ボロい箱なのに……。


 昨日、学校で押し付けられたものだが……、どういう訳か

 その時、


『お前、もうちょっと生きた人間に興味もてぇや。』


 何故かオッサンが、前に言ったことを思い出した。でも、頭に響く声がオッサンじゃない気がする。


 キモチワルイ。


 天狗の一件以降、どうもキモチワルイ。

 見知らぬ誰かのアタマの中を見ているような感じがしてキモチワルイ。


 普段から“心眼”はコントロールできているので、余程の強い思念がない限り、勝手に読んでしまうことはない。

 これは、どこかの他人のを見てしまっているというより、元々自分の中に埋没していた“何か”を、天狗の事件がきっかけに、ほじくり返してしまったような感じだ。


 更に、この嫌な箱。


 なんだか無関係ではない気がする。


 この奇妙な関連性……。


 全ての事柄が数珠繫ぎになっていて、一つの結末に辿り着こうとしている。


 それは、誰かの掌の上なのだ。


 イライラする。


 気分最悪でマツリは学校へと向かった。

 小堺の


「いってらっしゃい。」


 を背に。







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