第15話 僧正坊との対面

 楓は僧正坊と対面した。

 僧正坊は、重々しく口を開いた。


「して、申し開きとは如何なることか?」


「某、人の娘と所帯を持ちたく、人の世で励んでいるのでございます。」


「何!? さては……無断で人の依代を使いおったな!?」


 僧正坊が怒鳴り辺りはもっと激しい風が吹いた。天守閣周辺の木々から、メキメキと嫌な音が出るくらいに……。


「親爺殿に話を通さなんだは某の失態、しかし、祟られ、魂を食い破られ、取り殺される寸前のところでござった。祟った娘とも、意識取り戻すことあらば、改心させると誓いましてございます。」


「愚か者めっ!! 人側と簡単に話が付けば、苦労などせぬ!! 

 下手をすれば、お主が……! 折伏されるやもしれぬのだぞ!!」


 人間と天狗の尺度の違い。

 それを僧正坊はよく解っていた。

 天狗が承服しても、人が承服しかねることもあるし、双方納得していても、ホウリツという人間側の掟に触れると、攻撃されることもある。


「人間の女一人のために、そなたを軽んじておる儂ではない!」


「親爺殿……!」


 僧正坊は拳を握りしめ涙を滲ませている。


「しかし……!」


 未来といる幸せを知ってしまった。

 このまま、山に戻っても……。


「某……、どちらにせよ、このまま未来と別れても、朽ちるのみにござる! 某を破門して下され!!」


 楓は、屋根瓦の上に額をつけて伏した。


「………………。」


「その前に、その人の娘とやらに合わせい!」


 こうして――――。


 未来の狭いワンルームに、僧正坊が、やって来た。


 因みに、僧正坊が引き連れてきた他の天狗は先に山へ帰させた。

 なので、いるのは、僧正坊、楓、マツリ、未来の4者だけである(寝転がってる本郷玲王を入れると5人)。

 しかし、なにせ僧正坊が横綱三人分の大きさなので、ワンルームがぎっちぎちである。

 思わず僧正坊が


「最近の人間は瑣末な家に住んでおるのだな。」


 と、こぼすほどである。

 そんな僧正坊を前に、未来は顔色が悪い。

 まぁ、普通に怖いのだろう。


 天狗の中の天狗。僧正坊――――。

 その存在の大きさと言ったら、普通の人間でもその姿を見ることができるほどである。

 いるだけで圧がすごい。


 そんな僧正坊が、


「娘っ!」


 と、未来に声をかけるだけで、未来が飛び上がるのは、しょうがないことである。

 それでも未来は、精一杯応えようとした。


「は……い。」


 返事一つが震える。


「楓を破門とすることと、相成った。」


「どうしてっ……! 私が……いけないんですかっ!! わっ……別れて欲しいってことでしょうか!?」


 未来は怖くて怖くて今や涙目である。

 なのに僧正坊は容赦がない。


「別れとな!!? そなたっ!!! そのような軽はずみな思いで! 楓を弄んだのか!!」


 僧正坊が怒鳴ったせいで、窓ガラスが割れて部屋の中が荒れ放題である。

 それでも、未来は両手拳を握りしめ、僧正坊と対峙した。


「違います! わ私は……私は楓さんを、不幸にしたくない!! だから……その、家族とか友達とか、引き裂きたいわけじゃない!」


「たわけ者っ!!!!!」


 僧正坊は一際大きな声で怒鳴った。

 すると、部屋の中が台風状態で、僧正坊の姿は消えていた。風が止むと、頭上から声が降ってきた。


“そういう事は楓と話さんかっ!!  楓!! そなたは破門じゃっ!! 勝手致せ!”


「親爺殿!!」


 楓は天井を見上げた。

 未来も呆然と見上げ、二人はお互いを見つめ合った。


 そして――――、


「ごめんなさい。私……。楓さんの家を……。」


「それは違う。某のわがままなのだ。それに、親爺殿は勝手致せと言っていた……。某は、未来とこれからも一緒にいられる。」 


 ふっ。ふふふ。


 と未来が笑うと、言った。


「あの……楓さんがいて、私……本当に幸せで……だから、これからも一緒にいてくれますか?」


 未来は照れてうつむきがちだ。楓は、


「粗忽物ではござるが……何卒!」


 と、感無量で鼻声で答えた。

 その横で、マツリは肘付きながら、


「なぁ。イチャこくんやったら、誰もおらんとこでやれや。(つーか。帰りたい。)」


 と、ぼやいた。
















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