第13話 僧正坊、怒る2

 未来は、本郷玲王に憑依した天狗こと楓から、色々と説明を受けた。


 まず、JKは霊能師? みたいな娘らしくて、マツリさんと言うのだそうだ。楓さんに本郷玲王さんを紹介した張本人なのだとか。

 本郷玲王の方は祟られて魂を食い破られたらしく、楓さんが出てしまうと廃人になってしまうらしい。

 本郷玲王さんのご家族のご依頼で、楓さんは彼に憑依してて、楓さんは以前から私のことが好きで、告白してくれたそうだ。


 でも


「その、本郷玲王さんの人生とか、どうなるんですか? いくらご家族に頼まれたからって……。」


 彼の人権は一体どうなるのか?

 未来にはショックだった。

 すると、玲王クン、イヤ、楓さんが口を開いた。


「……。某、約束をしておるのだ。」


「約束?」


「うむ。この本郷玲王なる男、ある娘を酷く辱め、傷をつけ、そのため、娘は自死することとなった。その恨み故に酷く祟られてな……。某は、その娘と約束をした。魂は数十年かけて復活することもあると言う。故に、もし、この男目覚めることあらば、某が稽古をつけ改心させると。」


「そうだったんですか……。」


 考えがまとまらない。

 天狗だったっていうのも、驚きだし。

 この場合、本郷玲王さんは生贄になってるぽいっていうのも受け付け難い。

 無実ではないにしろ、私刑のような印象もある。

 勿論、人を自殺にまで追い込んだってことは、相当酷いことをしたのだろうけど……。


 ここでマツリが言った。


「人権どうのとは綺麗事やなぁ。」


「綺麗事って!!」


「まぁ、天狗が入らんかったら、ソイツ、祟り殺されとっただけやし。精神病棟ぶち込まれたかて、正気戻った時、出れる保証無いで? 薬漬けと天狗のきっつい修行、どっちの方がマシなんやろなぁ?」


「あ……。」


 そう言われて、未来は固まった。


 どっちが正しいかなんて……解らない。


 本郷玲王さん本人に聞けば、楓さんに入ってもらった方が良いと、いうかもしれない。


 でも……。


「楓さん。どうして言ってくれなかったの?」


「すまぬ。怖かったのだ。嫌われるかもしれないと思うと、どうしても……。」


「それから、今起こっておるこの暴風。実は某のせいなのだ。そなたと一時でも通じあえて幸せであった。故に、親爺殿に何の話も通しておらなんだ。その事で、親爺殿、僧正坊が、お怒りなのじゃ。粗忽物で、重ね重ね申し訳ない。今から、話をつけて参る。これを……。」


 楓は、小指ほどの羽を一枚差し出した。


「これは?」


「某の風切羽でこさえた肌守じゃ。これを持っておれば、身を守ること出来ようて。」


 未来は御守をそっと両手に包んだ。

 そして、楓はバッと大きな羽を広げ


「しばしの別れじゃ。体大事にされたし。」


 そう残して本郷玲王から楓は出て行った。


「れ玲王……楓さん!」


 未来は飛び去った楓を目で追った。

 残されたのは、力なくダランと横たわる本郷玲王の体のみであった。





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