第8話 奇跡の裏で

 マツリは渋々天狗の依頼を受けることにした。

 あの勢いだと、つきまとわれてしつこくされるに決まってる。あの時代錯誤チェリーにつきまとわれるなど、真っ平ゴメンである。


 とりあえず天狗は一旦帰らせ、夜、慶沢園で詳しく話を聞くことにした。


 夜――――。慶沢園。


 猫魈は、いつもの石の上で尻尾をゆったり振りながら、呆れて言った。


「マツリ。天狗のボンボンの世話してどないすんねん? ほっといてもジジィが捕獲しにきょるでぇ? 下手したらジジィの恨み買うか分からんのに……。」


「そないなこと言うたかて! アイツあのままやったら、今度つきまとわれんのウチやん! 絶対嫌や!!」


「はぁ……。しょうないな。で? 人間の女に惚れた言うてたんか……。とりあえずようにせな、話にならん。そやけど、女どうこうは才能もあるさかい、見えるようになるかは保証でけんで?」


「あぁ。それはアレや――――って、来よったな。」


 マツリと猫魈は空を見上げた。

 すると、バサバサっと大きな羽音を響かせ一匹の天狗が降り立った。


「御前失礼仕る。某、僧正坊が末息子、楓でござる。御身は大妖、猫魈殿とお見受け致す。どうぞ良しなに。」


 と片膝をつき頭を下げた。

 すると、猫魈は気だるそうに言った。


「うっとおしいわ。その長台詞。」


「いや、しかし!」


「はいはい。人間の女に惚れたんやったな? 名前と所在は判っとるんかいな?」


「それは……。」


 天狗が言い淀んだので、猫魈はマツリに呆れた顔を向けた。マツリは片眉を持ち上げ天狗を見て言った。


「まぁ、そんなことやろなって思とったで。

 とりあえず、人間の男一匹、都合のえぇのん捕まえに行こか。」


「人間? 男とな!? 某、惚れたのは……」


「解っとるわ! その代わり期限付き。」


「?? 期限? ど、どういうことであろうか?」


 楓の方は、マツリが何をしようとしているのかさっぱり解らないでいたが、猫魈は勘づいた。


「何や。そないにえぇ依代がおったんか?」


「まぁな。」


「依代!?」


 楓がギョッとした。なぜなら


「そのようなこと……! 入った人間は自我が消失するではないか!?」


 すると、マツリは不敵に笑った。


「天狗のお兄さんよぉ。人間っちゅうんは色々おるんやで?」


 楓は、ゴクリと生唾を飲んだ。

 もし、ソレをやってしまったら……後には引けない。




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