第3話 水曜日のラーメン屋
毎週水曜日の午後6時になるとここのラーメン屋には奇妙な取り合わせの客がやって来る。
一人は、褐色の大きな金縁のサングラスをかけ、角刈りの頭で、身長はそれほど高くはないのだが、肩幅が広いので、ただでさえヤクザのような風貌なのに、更なる威圧を印象に与えてしまう中年の男。
もう一人は、ボロボロの薄汚れた布をマントのように首のところで結びつけ、中にはランニングとネズミ色のステテコを着て、ビーチサンダルを履いて、黄色の目をギョロつかせたガリガリの高齢男性に、レモンイエローのパーカーを着た外はねボブの十代後半の少女の3人組である。
この店も、高架下で暖簾を上げてから70年程だから、色々な客が来るのだが、こんなに珍妙な客は店が始まって以来であろう。
この3人は、6年前からいつもこの時間で通い続けているが、店に通い始めた当初は少女と老人の二人だけの来店だった。
その頃少女はまだ小学生くらいで、老人は明らかにサイズの大きな綿地の帽子を、一体どうなっているのか、浮いてるような状態で被っていたが、今は禿げた頭をそのまま出している。
ヤクザ風の男は、二回目の来店から彼らと一緒に来るようになり、それからは毎週水曜の店を開ける時間になると、この奇妙な三人組がやって来るようになった。
どんな繋がりがある三人なのか、皆目検討もつかないが、店主の親父はあまりそこは気にしないようにしている。
客は何人であっても客、と言うポリシーもあるのだが、とりわけ老人が只者ではないことを知っていて、余計な詮索はすまいと固く決めているからだ。
それを知ったのは一年ほど前の事。
親父は大腸がんの宣告を受けた。
初期だから、切れば治ると言われてはいたものの、落ち込まないはずがなかった。
そんな折に、あの老人が珍しく開店前に、それも一人でやって来て、店の外から手招きをしているのだ。
何や気持ち悪い。
親父は不気味がったが、客なのだからそうは言ってられない。
仕方がないからガラス戸を引いて開け
「すいまへんけどぉ…。」
といいかけた瞬間
ずぼっ
「……えっ……!」
老人がいきなり腕を、親父の腹に突っ込んだのだ。
そして何か探るように、腹を掻き回すと何かを掴んでズルリ……と黒い塊を引っ張り出してきた。
それをどうするのかと、親父がマジマジ見ていると黄色い歯を剥き出して、黒い塊をぽいっと口の中に放り込むと、クチャクチャと音をたてて食べてしまった。
親父は余りの出来事に、あんぐり口を開けていると、老人はニィと笑って去っていってしまった。
一体何だったのか、親父は呆然と立ち尽くすばかりであったが後日、医者からとんでもないことを言われることとなる。
何と、癌が消えていると言うのである。
親父がビックリしたのは勿論、医者は検査結果を何度も見返すほど驚いていた。
その後、特に異常もなく今日も元気にラーメンの仕込みができているのだ。
その日以来、親父は老人が癌を食ったのだと信じて疑わない。
だから、あの老人だけは永久にお代は頂かないと決めている。
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