13話 闘う理由 【1/2】

 二時間後、ラーミアルは無言で自室のベッドに座っていた。


 シュクは壁一面を占拠する本棚の隣にある机に本を置いて読んでいる。ラーミアルの心情に配慮して、シュクはただただ見守るだけだった。


 静寂な空間のまま一時間以上が経っただろう。

 開いた窓から入る日光は、部屋を明るくしている。穏やかな空気がラーミアルの部屋を経由して、外に流れ出る。

 シュクは黒いドレスの袖口を腕まくりし、白く華奢な腕を露出している。椅子に座り脱力させた脚も細く、人形を思わせる美しさがある。ドレスの下にある身体の線は子供のごとく、凹凸がない。繊細な糸のように垂れる黒髪は、綺麗に光沢を出す。ダークブラウンの瞳は冷徹感があり、潤った薄紅色の唇が余計に際立たせる。

 基本的に無表情のシュクは、大和撫子の例えが一致している。


 ラーミアルは柔らかみがない硬い表情で、立ち上がる。それに気がついたシュクは横目で観察をする。両手をゆっくりと上着に伸ばし、掴み――脱いだ。


 直視できない透き通る純白の肌。筋肉により引き締まったくびれは美の象徴だ。はっきりとした身体の輪郭は惚れ惚れしてしまう。

 素朴な色気のない下着は、ほんのりと盛り上がっている。魅力的な豊かさがある、とは言い難い。しかし、形と肌質、弾力は完璧な美胸である。

 そのままラーミアルは、ズボンに手を伸ばす。


 ハッ! と我に返るシュク。


 急いで両手で支える本に視線を戻した。中身が30歳で恋人なしの研究一筋の男という理由から、女性の身体に対する免疫力がない。一方で興味はあるが、これも研究者目線のモノなのだ。

 シュクが焦る訳は、少女の裸体を見たという事実。その事だけで徐々に罪悪感が伸し掛るのであった。

 

[この容姿からかラーミアルは平然と着替えや添い寝するが、私自身の心臓に悪いな]

 と、カクッと首を下に落とす。



 ラーミアルは魔術学園専用の黒い戦闘着に着替え終わっていた。タンポポ色の髪の毛が華やかなに咲く花のように美しい。編み込みのあるポニーテールと黒い服は、色合い的にとても合っている。

 ラーミアルは部屋の壁に寄りかかる打刀を寄ると、手に取った。おもむろにシュクへ顔を向けると、口を開いた。


 「そろそろ行きますがシュクはどうしますか?」


 声をかけられたシュクは、ピクッと身体を反応させる。視線を横に向け、考え事をしている面持ちのラーミアルを見た。


 「私もついて行きます」

 と、答えて本を閉じた。シュクは立ち上がると、ラーミアルの傍らに並んだ。





 闘技場の入り口で立ち止まる二人は会話を始めた。


 「では行ってきますね」

 「気をつけて。私が首を突っ込むことではないと思うが、なぜあの騎士との戦闘を受けたんですか?」

 「それは‥‥‥」


 顔を曇らせ明かりが見えない。ラーミアルは言葉をつまらせ、シュクから目線を離した。


 「今はまだ答えがでていません」

 

 片手にある打刀を掴む力が少しだけ強くなった。

 午後のひと時、小鳥の囀りだけが元気よく辺りに響いていた。



   +++   +++   +++



 お昼に向けて徐々に日も強くなり始めているころ。学園の顔であるレンガ作りの巨大な門の下にいるのは、二人の騎士と一人の少女。そして、小さい幼女である一人。

 

 ラーミアルは、カミル一等騎士長との戦闘を承諾した。

 

 「それは良かった! 闘ってくれないと思ったぞ!」


 カミルは微笑んで胸を張った。銀色の甲冑は擦れ合う音を立てて、喜びが音により伝わってくる。

 ラーミアルは戸惑いながらも、先程までの笑顔が消えていた。


 「それじゃ、3時間後に学園の闘技場で待ち合わせはどうだ?」

 「わかりました」


 ラーミアルの返事を聞いたカミルは、腰に手を当て「よしっ!」と言い放つ。


 「3時間後にまた、会おうラーミアル! その時は本気でかかって来るんだぞ!」


 活気のある声で話を閉じると、手を上げて去っていった。

 シュクは二人の騎士の姿を見送り、ラーミアルの方へと首を動かした。眉間に力が入り、表情は硬い。真剣な顔は、どこか緊張しているようにも見える。


 シュクは自然と口が止まり、ただただ傍観するだけであった。

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