12話 来訪 【2/2】

 客人が待つのは学園の正門前。女子寮から歩いても10分はかかる距離の場所だ。

 食堂から出てシュクはラーミアルに同伴し、エルリダは用事があると自室に戻っていた。


 学園の正門と本館を繋げる幅広い通路。2人は客人のいる正門へと駆け足で向かっていた。


 「結局、お客さんとは誰なんでしょう? 寮母さんは急いで行くようにと言っただけでし誰とまでは言ってませんでしたし」


 ラーミアルは首を傾げ、考える。心当たりのない様子だ。

 シュクはラーミアルの駆け足に同行するべく、ほぼ全力で走っていた。


 会話に対する反応も難しく、

 [なぜ私は走っているのだ?]

 と、疑問を持つ。



 客人が待つ正門に辿り着いた。

 

 [この学園、無駄に広すぎる]

 と、疲れた身体を脱力させるシュク。


 学園の正門は高さ15メートルはある巨大な門だ。レンガ造りの門は、デザインをした人物の個性を感じさせる仰々しい形をしている。今は開いているが、入口は金属製の柵で閉じることができるようになっている。


 シュクとラーミアルは入口付近にいる二人の人影が目に入った。

 二人とも銀鎧を身に纏っていることから、兵士よりもランクが上の騎士と見受けられる。昨日会ったスーゲ二等騎士と比べると、第一印象から格が違うように感じる。スーゲが魔術としたら、二人は肉弾戦を得意としそうな筋肉質をしている。


 そのうちの一人は、別格の佇まいだ。

 日に焼けた髪はこげ茶色で、髪質は手入れされていないため傷んでいる。横側は刈り上げられ、髪の毛は全体的に無駄のない長さだ。髭を生やした貫禄のある顔立ちは、40歳前後と見受けられる。日々の訓練の成果のためか、老いは一切感じさせない。大柄な身体は余分な筋肉がついていないため、俊敏さがあると推測できる。

 腰に据えている長剣は一際目立つ。一刀するだけで、あらゆるモノを両断できるのであろう。


 ラーミアルは貫禄ある男性を見るなり恐怖で萎縮する、のではなく正反対の反応をした。


 「カミルさん!!」


 その声は親しい人と久しぶりに再開し、気分が高揚している音調だ。ラーミアルの顔を見ると、それは明らかだ――純情可憐な1パーセントの汚れのない顔をしていた。


 「おぉー、 ラーミアル! 見ないうちにキレイになっちまったな!」


 カミルは野獣のような厳つい声で呼んだ。


 「お久しぶりです! カミルさんは以前と全然変わらないですね」

 「そうかー?」


 ラーミアルはカミルに近寄ると仲良く会話を始めた。

 シュクとカミルの傍らにいる男は、一歩下がり二人の様子を見ている。シュクは息を荒立て、黒いドレスの袖で汗を拭った。


 「今日はどうしたんですか?」

 「そのことについては後で話す。ところで後ろの嬢ちゃんは誰なんだい?」


 一瞬、鋭い眼差しがシュクに向けられた。迫力ある戦意の尖端を現した、気がする程度だが。まばたきすると、満面な笑みになっていた。


 「私はラーミアルの親戚のシュクと申します」

 「親戚か! フルデリックに兄妹はいると聞いていたが嬢ちゃんみたいな子がいるとは知らんかったなー」

 「フルデリック?」

 「んっ? ラーミアルの父親の名前だぞ? 知らんのか?」

 「そ、そのことなんだけど、シュクは頭を打っちゃって記憶がなくなっちゃってるんです!」


 ラーミアルは慌てた様子で補足した。カミルは陽気なおじさんに見えるが、それだけではなさそうだ。


 「それは大変だな! 俺はラーミアルの父親と親友のカミルって言う。隣にいるこいつが、」

 「“フォエ”と申します。“カミル一等騎士長”に仕える二等騎士でございます」

 「と言うことだ! よろしくなっ!」

 

 カミルはお辞儀をしているとフォエの背中をバシッと軽快に叩く。


 「カミルさん、痛いですよ」

 「鍛え足りてないんじゃないか?」

 「力加減を鍛えろと毎回、言っているのは私の方ですよ」

 「細かいことなんて気にすんな!」


 カミルは大声で笑いながら、数回フォエの背中を平手で鳴らす。フォエは「まったくこの脳筋は」と言いたげな顔で呆れている。


 「ところでカミルさん、今日来ていただいた理由をそろそろ聞いてもいいですか?」


 カミルの表情は笑顔を崩さないで、ラーミアルに視線を送った。


 「昨日はスーゲの馬鹿がお世話になっちまったな! そのことについては謝る。すまない!」


 勢いに任せて一礼すると、カミルは続けて口を開く。


 「それとは別にな、今日来たのはラーミアル、お前と闘いに来たんだ!」


 楽し気に言葉を発したカミルに対し、ラーミアルは硬直してしまった。言葉の意味がわからないのか、脳内で処理しきれないのか。顔の筋肉までも、動きが止まる。


 ラーミアルが話し始めたのは、数十秒後のことだった。

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