11話 早朝2 【0/2】

 ラーミアルと巨漢が戦闘を始めた、一時間前になる。



 「あれっ、ラーミアルがいない。どこか行ったのか?」


 大きく口を広げ欠伸を漏らす。シュクは眠気でボーとした意識で、身体が左右に揺らしている。

 シュクは体にかかったタオルケットをどかした。視線を落とすと、仄かに黄色がかった無地の服を着ていることが確認できた。

 

 [ラーミアルが着せてくれたのか。迷惑をかけてしまったな]


 シュクはベッドから降りて、窓の外を眺める。まだ、日が昇っていない早朝だ。

 

 [だいたい6時前というところかな。もう一眠りするには目が冴えたし、外でも歩いてみるかな]


 部屋に目を動かすと廊下に通ずる扉の横に、丁寧に靴が揃えてあった。


 シュクは靴を履くと、着替えをせずにそのまま扉を開いた。





 外の空気に触れた肌は心なしか寒さを感じた。

 シュクは女子寮の玄関を出てすぐの場所で、動き始めた。ラジオ体操の思い出しながら、小さな身体を大雑把に遊ばせる。


 「いっち、にー、さん、しー」


 周囲は無音。シュクの囁きも通り抜ける。掛け声を何度か繰り返す。すると、シュクは視界の端から聞き覚えのある声に気がつく


 「あなたは」


 視線を向けると、品格のある美女が接近してきていた。深紫の長い髪をくるくると回して毛束にし、耳元に巻きつけて固定している。容姿端麗では表現できない大人の美女だ。彼女の美しさは全身の血流にのせて染み渡ってしまう。


 「あなた、もう大丈夫ですの?」

 「えっ?」


 美女は顔を合わせるなり、病人を憂慮する顔色でシュクを目にする。しかし、理解の追いつきができないでいる黒髪の幼女。


 「昨日、倒れてしまったではないですか。あの後、運んで差しあげたのですよ」

 「あっ、お風呂の時の。その節はお手数をおかけしてしまい、申し訳なかったです」


 シュクは軽めのお辞儀をして誠意を示す。


 「いいですのよ。体調が良くなったみたいで何よりです! ところでその変な動きはなんですの?」

 「ラジオ体操ですよ」

 「ラジ、オ、タ、イソー?」

 「はい、ラジオ体操」

 「ラ、ラジ、ラジッ・・・・・・。まぁいいですわ。私はこれから日課ですの」


 美女は靴紐を結び始めた。ラーミアルがスーゲ二等騎士との戦闘で着用していた黒い服を着ている。学園統一の運動用の服という認識で間違いないだろう。

 靴紐をしっかり結び終わると美女はシュクを横切る。前進していると、美女はピタッと足を止め振り返った。


 「そういえば名前を伝えていませんでしたね。わたくしはエルリダ=アヴァ・カレラと申しますの」

 「私は」

 「シュクと言うのでしょう? ディル・ロッタさんが名前を呼び続けていたので覚えていましたよ」

 「そうでしたか。では、これからよろしくお願いします。」

 「ええ、よろしくお願いしますわ」


 言葉を綺麗に消すと、エルリダは学園の中心の方向へ向い歩きを再開させた。

 シュクは準備運動を終えて、燃え滾る赤色で空が塗り替えられるのを見守る。


 「散歩でもするか」


 活気のある光を浴び花や樹木たちが目覚めだす中、一歩を踏み出した。




 学園の中心部には広大な敷地を使用して建てられた本館がある。どっしりと風格のあるレンガ造りの建造物だ。レンガの大きさは全形(210mm×100mm×60mm)と同等で、イギリス積みという手法の建築構造になっている。イギリス積みは堅牢な積み方で、レンガの長手のみの段と小口だけの段が一段おきになっている。壁には長方形の窓があり内部の様子が覗くことができる。正面側には巨大な入口があり、同時に100人が入っても問題ないであろう。4階建ての本館は学園の入り口から伸びる一直線の大きい道幅の先にある。レンガが敷かれた道の横には低木が等間隔で並んだいる。ここが中庭にあたる。

 シュクは首を目一杯上げ本館を見るが、視界に収まりきらない。


 「立派な建物だな。これは観光地としていいな」



 シュクは小さい足を使って、本館を一周した。その時間――30分。


 「広すぎないか?」

 と、息を切らせて一人でツッコミをいれる。

 本館の正面に戻ってくると、休憩とばかりに中庭にあるベンチに座った。

 数分間の休みを取り終えると、本館に向かって左手のエリアへと足を進める。

 

 100段はある階段を下ると、立派な噴水がある場所に来た。噴水や花、樹木の配置は細かくデザインされているごとし。自然さのある洗練された空間の仕上がりだ。

 シュクはこの広場にあるベンチでも少しの休息をとった。

 

 すると――物体どうした激しく衝突する音が空気を振動させた。大地も軽い震動をしている。


 「なんだ!?」


 急いで発生源の方角へ首を動かす。音のする方からは、空へと土埃が舞い上がっていた。樹木の背を越えて見えることから、小さい隕石が地上に衝突したのではないかと思わせる。

 シュクはその場から急いで、現場へと走り出した。


 轟く音は近づくにつれ凄まじくなり、凝縮した衝撃として身体を騒ぎ立てる。

 円形に樹木に囲まれた先には、芝の生えた広場があった。

 シュクは樹木の陰から広場を見渡した。



 そこには――静止したラーミアルと、襲いかかる狂気に満ちた巨体な男。



 瞬間、シュクはなりふり構わずに身体が動いていた。大きく口を開き、張り裂けんばかりの声を上げた。



 「ラーミアル!!」

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