11話 早朝2 【2/2】
気がつくと、空は既に明るくなり小鳥のさえずりが響いていた。
エルリダはクルッと回り、ラーミアルの方向へと身体を向けた。可憐な容貌からは堂々たる気品を漂わす。
「終わりましたわ」
と、ラーミアルに優しく声をかけた。すると、広場の外周に生える一本の木を見て、口を開いた。
「あなたももう出てきていいですわ」
それを聞きつけたのか木の陰から小さい人影が現れた。
可愛らしい幼女――シュクだった。ゆっくりと駆け寄ると、2人の前で立ち止まった。
「二人とも大丈夫でしたか?」
腰を下ろしたラーミアルが、微笑みを向ける。
「大丈夫でしたよ。カレラさんに助けていただ――」
「エルリダでいいですわ」
「えっ、はっ、はい? では、エルリダさんに助けていただいたので無事でした」
エルリダは顔を隠すように逸した。2人に見えない顔は、ほんのりと梅色に染まる。
「私も木の陰から一部始終を見ていました。来た時には大きい男にラーミアルが襲われる瞬間でしたが、そこにエルリダさんが現れて圧倒しましたね。エルリダさんってかなり強いんですね」
「ラッ・・・・・・ディル・ロッタさんよりは強い自信がありますわ」
「そうなんですか?」
「そうですね。エルリダさんは魔術学園で4位ですから、かなりの強者です。先程の闘いも力の一部も出していませんでしたし」
ラーミアルは真面目な面持ちで説明をした。その顔を見たシュクは、首を動かしてそっぽ向いてエルリダを横目にする。
、昨日の浴場での一件の言葉が徐々に思い出してきた。
[そう言えば、昨日のお風呂でエルリダがラーミアルのことを嫌いとか言っていたな。この状況って、かなり気まずいんじゃないか]
と、二人を交互に見て現状の雰囲気に納得する。
ラーミアルは地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。手の感覚は戻りつつあるが、眠りから覚めたように痛みが起きる。小刻みに震える手を抑え、顔を顰めないように我慢する。
エルリダがラーミアルの方に視線を送り恥ずかしそうに口を開いた。
「ディル・ロッタさん、わたくしのことをエルリダとお呼びするのですから、わたくしもこれからはラーミアルさんとお呼びしないと不公平ではないですわよね? そう思いますわよね?」
腰に手を当て、強い主張をする。対するラーミアルは、何事かと呆気にとられた顔でエルリダを見た。
「はっ、はい。私のことは好きに呼んでいただいて構いません」
「わかりましたわっ!」
エルリダの薄い紅色のほっぺたは、口角が上がり少しだけ膨らんだ。
シュクは目先の二人の顔に視線を送り観察する。
[エルリダはラーミアルのことが本当に嫌いなのか? まー、女子同士の関係は複雑と言われたから触れない方が良いだろう]
と、不思議そうな面持ちで思いに至る。
顔を赤らめたエルリダは何かを伝えたいようで口ごもっている。ラーミアルは無言で首を横に傾けると、「どうしたんですか?」と投げかける顔をした。それに答えるようにボリュームを大きくし、言葉を出す。
「ご一緒に朝食でもいかがですか、ラッ、ラーミアルさん。シュクさん?」
シュクとラーミアルはお互いの顔を見合わせた。エルリダの意外な発言に、二人は自然と穏やかに微笑みが生まれる。
「何かおかしいなことでも?」
一層、顔の赤色が濃くなる。
「そうではないですよ。以前から、エルリダさんは高貴な方だと思っていましたが、思っていたよりも話しやすいなと」
エルリダは顔を下に向け、口を塞いでいる。「んー」と、口の隙間から少女のような可愛らしい甘い声が漏れ出る。
「私もお腹がすきましたので、朝食に行きましょうか」と、ラーミアルが優しい声色で誘いを受けた。シュクも、「私も賛成です」と手を上げて同意する。
女子3人は雲一つない空の下、身体を覚醒させる気持ちの良い日を浴びる。
無表情の幼女は、絶品の空気を小さい口で吸った。
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