11話 早朝2 【1/2】

 ラーミアルは大きく吹き飛んだ。

 

 爆発音とともに風圧で煽られた身体は宙を舞う。ラーミアルは早急に意思を確認し、受け身をとり、着地した。


 「えっ? 何が起きたんですか?」


 ラーミアルは巨漢の拳を直撃すること覚悟したが、無事なことに一驚を喫する。辺りを見渡すと今までと様子が違うことに気がつく。

 

 白く靄がかかっていた。

 

 次第に煙霧が晴れると、ラーミアルの目の前にいたのは可憐な美女だった。


 「カレラさん!?」

 「昨日ぶりです。ディル・ロッタさん」


 エルリダ=アヴァ・カレラは堂々たる立ち振る舞いで、顕在していた。


 「なぜあなたがここにいるんですか?」

 「日課で体を動かしていたら、物凄い音がしたので駆けつけたのんですわ」


 エルリダは腕組みをして、気品ある物言いで話す。ラーミアルは想定外の出来事に驚きを隠せないでいる。


 ギリッ、ギリッと脳裏に刺さる忌々しい音が鳴る。


 「手加減したつもりですが、わたくしの技を直撃して立っているとしつこい相手ですのね」

 「私の攻撃も歯が立たず、かなりの強者です」

 「あなたの攻撃を!? それは厄介そうですわね」


 巨漢は数メートルの位置に仰向けに倒れていた。エルリダの攻撃によるモノである。

 二人が話す中、2メートルある身長の大男はゆっくりと起き上がる。操り人形のように物ともしない振る舞いで動く。

 一歩一歩進み、逃げる者を断固として許さない気を放ちながら立ち塞がる。


 「カレラさん、油断しないでください。彼のスピードは速いです」

 「わかりましたわ。あなたは下がっていてください。その腕は動かないのなら、足でまといになるだけですの」

 「はっ、はい・・・・・・」


 エルリダはラーミアルの前に進み、優雅に立つ。凛とした佇まいは、1匹の虫をも通さない自信を感じさせる。


 「ゴ、ろ、ス」

 「物騒なことを言わないでほしいですわね。そんなこと言うのでしたら、少しは本気を出してもよろしいですわね?」


 エルリダは尖った声音で質問をする。返答のないことを確認すると、手の平を巨漢へと差し出した。

 魔術の発動を知らせる神秘的な光が放たれた。

 手の先には――1メートルある半透明で鋭利な槍が出現した。透明な槍の模型に“水”を閉じ込めたような材質をしている。半透明な物体は微動だにせず、宙に浮く。

 

 「行くわよ」


 一秒もかからず、風を切るどよめきは鳴り止む。

 言葉が切れた瞬間、数十メートル先に生える樹木が大きく揺れた。水の槍が分厚い木の幹に綺麗な風穴を空けたのだ。槍は地面に刺さり続けているが、エルリダの集中の途切れたと同時に消失する。

 巨漢の頬には刃物を掠めた線が引かれている。薄汚れた皮膚からは、濁った赤い憎悪を吐き出されている。


 「これは威嚇ですわ。次は中心を射抜きますわよ」

 

 巨漢は睨みつけるだけで、応答はしない。エルリダは一方的な会話により、不満げな表情が顔に出る。眉を顰め、いかにも怒りますよと言わんばかりに。


 「ゴ、ロ、ず」

 と、狂った発声をしながら腰を落としていく。

 

 地面をしっかりと掴み、腕の筋肉が力んだことによる膨張。その直後、一点を目がけた猛烈な突進をした。

 

 エルリダとの距離は寸秒も早く縮まった。

 

 ドォゥン

 

 空間に鈍い振動が響いた。

 

 巨漢は1メートルというところで、停止している。その体勢は壁にぶつかっている最中そのものだ。

 エルリダは一歩も動かず、美しい姿勢からは腕が伸びる。その先には、半透明な一枚の水箱を作り出していた。その壁は2センチと薄く、容易に破壊できるガラスのようだ。

 

 巨漢は直ちに後方に下がった。そして地に足をつけた瞬間だった。

 

 エルリダは優雅に構えていた――10本の細長い槍は巨漢を捉えている。エルリダは、もはや口を開こうとしない。


 間髪入れず、10本は次々と宙を駆けた。


 巨漢は大きな身体を器用に動かし、一撃一撃を丁寧に回避する。それ以上の速さの水槍は、服や皮膚を裂きながら通り過ぎる。腕や脚からは血が流れ、服にも赤黒い染みが広がる。

 致命的な傷は負ってないものの、戦闘を続けられる状態でないことは火を見るよりも明らかだ。

 

 巨漢は歯軋りをしながら静止し、エルリダの奥にいるラーミアルを凝視する。

 

 数秒の沈黙を置き、巨漢は身体を反転させた。そして、大きく跳ねるようにして学園の外へと移動していった。

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