10話 早朝1 【2/2】
巨漢のワンパターンの行動を避けるのは問題ない。辛いのはラーミアルが与える効果が薄いということだ。
ラーミアルは思考を凝らし、相手の様々な部位を手や足で攻撃をする。その攻めは一度として結果を出せないでいる。
――戦闘は数分間続いた。
国のため日々鍛える兵士や騎士の上位勢にも劣らない、膨大な体力を有するラーミアル。しかし、顔にかいた汗は短時間にも関わらず異常なほどの量である。
単純な動作だけの消耗ではないことを知らせている。
「このままでは埒が明かないですね。どうすれば」
華麗な足さばきで巨漢の剛腕を回避し続ける。攻撃が一定だか連続的な動きのため、一瞬の油断が命取りとなる。
ラーミアルは後方に下がり、巨漢の拳を避けた―― 「えっ?」と思わず声が漏れる。
目の前の相手に気を取られ、足元が疎かになってしまい躓いてしまった。
バランスを崩し、滑るように背中が地面に引き寄せられる。ラーミアルにとっては体勢を直すのは容易のことだが、現状は違う。
瞬時の隙は脅威となった。巨漢は意思があるように追撃の一打を突いてきた。逃れることの出来ない一撃に、ラーミアルは咄嗟に両腕を前面へ運んだ。
「ゴ、ロ、ズ!」
大地を踏みしめて豪快に飛びかかる拳が襲う。巨漢の大きく膨らんだ筋肉に比べたら、ラーミアルは細く弱々しい腕だ。その腕に重々しい堅固な岩石が衝突した。
全身を伝う衝撃は吸収できず、数十メートル背面に飛んだ。ラーミアルは大きく放物線を描く中で強引に姿勢を整えにかかった。
ラーミアルの面持ちには痛覚を堪えるため、強く食いしばる状態が垣間見える。
半円を書く途中、美しい身のこなしで強力な重力に引っ張られるように地面へと着地した。
「なかなか痛かったですよ。と言っても返事はいただけないでしょうが」
ラーミアルの細く繊細な腕は痺れ、一時的に感覚を失ってしまう。両腕は制御は鈍く、垂らした脱力状態のままだ。
[これは参りましたね。折れてはいないものの数日間は支障がでてしまうレベルですね]
と、自身の容態を即座に解析する。
目の前にいる巨漢は歯軋りを始めた。聴覚を刺激する顰蹙を買う音が響き渡る。
巨漢は身構えると、災いが幕開けする狂気的な白目で開口する。
「こ、ロ、ず」
巨漢は腰を落とし、地面に指をめり込ませた。今までとは異なる様子にラーミアルは目を細める。
[これは嫌な予感がしますね]
と、第六感に微弱な信号が流れを感じた。膝を曲げ、回避に専念の意思が見える。
爆音――巨漢は残像を残した。人間の処理速度を超えた速度で押し迫る。
「早いっ!」
ラーミアルは目を大きく開き、仄かに人影を感知した。蜃気楼のように歪んだ黒い影。
視覚を頼りに地面を力強く蹴りを入れる。横側に数メートル距離を空けたラーミアルは、一時前の立ち位置に目を向けた。
凄まじい重い響き。地面が大きく掘られ、土や石が散乱する。
寸時も早く、巨漢は出現した。ラーミアルは気がつくと、巨漢が自分自身を捉えていることを悟る。瞬く間に追随を仕掛けられる。再び、地を揺らす衝撃が発生した。
巨漢は消散する――轟速の黒い稲妻は、宙を這う。
「まずっ」
言葉は途中で切られることになったラーミアルが回避に脚に力を入れる。
視野から脳に信号を送るには、既に遅い。
対面には狂気を絡みつかせ、ラーミアルの視界を漆黒に染める。大きく振り上げた自暴の硬い拳を曝ける。
巨漢はラーミアルの手の届く範囲に憚る。脱力する腕を必死に命令するが受つけることはない。ラーミアルの足裏は膠着し続けてしまう。
諦めを知らない瞳孔は、意思を完遂した。
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