05話 魔術決闘Ⅰ-1 【1/2】
魔術学園の生徒は魔術の使用について規約がある。それは、生徒が魔術を騒動や悪用などの問題を起こさせないためである。そのこともあり、生徒が魔術を使える場所は限られている。
その中で、心置きなく使える場所の1つが“闘技場”である。
闘技場――大きさは長さ211メートル、幅186メートル、高さが40メートルある。収容人数は最大で約3万人。円形の闘技場は、大空から見ればむき出しなのだ。構造はレンガと火山灰を利用したコンクリートで建つ。鉄骨は用いていないが、円筒型の設計のため強度は安心して良い。
戦場は長さ73メートル、幅62メートルの楕円形をしている。観客席は高さ5メートルから35メートルまで階段で通行が可能だ。樹木の断面のように均等な間隔で席が広がっていく。
建物の外側には、所々に曲線形状の通り穴が開いている。設計者のちょっとしたオシャレというとこであろう。単純なアーチとは違い、見た時に味わいを感じさせてくれる。
闘技場内の一部には歴戦の戦士たちの石像が天目がけ、威風堂堂と佇立している。
地球の西洋の古代競技場に類似する点も多いのは、一先ず置いておこう。
そんな闘技場は、広大な学園内の一角にある。誰でも利用できる魔術戦闘と娯楽を兼用するため、建設された施設とされる。
シュクは綿のように柔らかく、小さいお尻を客席に乗せていた。硬く冷たい石造りなので、数分おきにお尻の位置を変え、痛みを緩和している。
幼女の視界に入る限り、300人を超える人間が中央地に注目していた。話を聞きつけてきたのであろう見物客は、学園の生徒が多く、その次に大人の男性が多い。数名だが、甲冑を身に纏った人間たちもいる。
闘技場は広く、反対側の客席に座る人々の顔は小さく認識するのが難しいほどだ。
シュクは穏やかな日の光を浴びながら、じっとしている。周りには、数十名の人たち。大声で盛り上がる親父たちや、微笑ましい母と子。年齢の幅が広く皆、娯楽のような雰囲気を醸し出している。
シュクは横目で1人の子供を確認すると、口を開いた。
「許可を得ずに店をやったのが発端で、こんな大事になっているが」
と、小動物のように可愛らしく悔悟する子供に話す。たまたま同列に居合わせたのは、今回の騒動の原因となった少年だった。
緩やかに顔を向けると、少年は不服な表情へと変化した。
「うるさい!」と吠えた。子供が親の言うことを受け入れたくない、そんな威勢の良さだ。すると、話しかけてきた少女に対し、「お前は何者なんだ?」という気持ちを犇犇とさせている。
じーと睨みつけ、
「同年齢のお前に何がわかるんだ」
と、口に出さずとも顔に書いてある。少年はぷいっと首を背けると、素っ気ない口調で話す。
「そんなの、そんなのわかってる。でも、お金が早く欲しかったんだ。‥‥‥妹のために」
兄妹思いの優しい兄という印象を強く感じさせる。
この少年の意思に感銘を受ける大人だって多いかもしれない。しかし、感銘を受ける人間はこの世界では極めて少ない。裕福だからこそ、心に余裕が生まれ、相手を思いやれる。
都市アルヴァードに住む人間たちの4分の1は貧困層であり、自身の周りを養うだけで精一杯なのだ。そんなに人間たちは、他人の生活に関与することすら避けるであろう。
アルヴァードの貧困率は回復の傾向に向かっている。悲劇的な都市だって存在する。この都市で貧困な子供に優しくするのは、学園の生徒と一部の大人くらいであろう。
シュクは最前列から戦場にいる2人の様子を眺めていた。
「そういう理由か」
「悪いか!?」
少年は噛みつく勢いで大声を出した。シュクは無表情のまま反応をしないで、「そうか」とだけ口にする。
それからの会話はなくなった。闘技場全体は賑わい、今か今かと楽しみにしている。
戦場で向かい合って立つ、美少女と黒服の男。
シュクは、健気な少女に視線を送っている。
[それにしても、厄介事に巻き込まれてばかりだな、ラーミアルは]
と、一緒にいた数時間の濃厚さに呆気に取られるが、これも悪くない。そんな気分なのだ。
数分が経ち、決闘が始まる時、少年は席から立ち上がった。
「お姉ちゃん、頑張って!」
子犬のように軽快に鳴いた。その瞬間、合図が叫ばれ、闘技場は盛大に歓声により震え上がった。
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