05話 魔術決闘Ⅰ-1 【2/2】
――数分前
「スーゲ二等騎士、会場の取り計らいありがとうございます」
「キミー、この学園の理事長とは仲良くさせてもらっているからね。会場はすぐ用意できるよ。私を誰だと持っているのかな? 王国を代表する二等騎士の一人なんだよ」
「はい。申し訳ありませんが、私は負ける気は持ち合わせてきてないので、本気の方がよろしいかもしれません」
「キミー、私が本気を出すとでも? これでも、王国を守る代表なんだ! キミーみたいな子供相手なら半分の力もいらないだろう」
2人は5メートルの間を開け、会話をしている。両者の立つ地面には、3メートルの白い線で書かれた円が記されている。要するに、ココがスタート位置になるのだ。
ラーミアルは戦闘に際し、着替えていた。長袖、長ズボンと品質が高く、動きやすさに適した服装だ。この服は、魔術学園専用の戦闘着である。戦闘着のルールとして、魔術付与は原則として禁止されているため、至って普通の衣服ということになる。
一方のスーゲは、騎士としては違和感のある黒色の正装のままだ。彼の黒い服には少なくても、数種の魔術付与されているとされる。付与されている魔術は一級品のモノばかりで、選りすぐりの魔導士が数日行使したという。
勝負が始まる前から、ラーミアルは大幅に不利なのだ。この時点で、低位の魔術師、戦士の場合は闘いにもならない。魔法、物理攻撃は服の上で遮断されるため、ただ愚行になる。このことは、都市に蔓延る戦闘好きには知られているため、喧嘩を売る者などいないのだ。
しかし、ラーミアルはそのことも考慮して勝負に挑んでいる。自信などではなく、寛容できない行いを目にしただけのことだ。
「後悔はしないようにしてください」
「忠告、善処するよ。ただ、キミ―が私をそうさせたらね」
勝負が決まったような顔でニヤリと微笑むスーゲ。すると後ろ腰から、10センチの灰色に透き通った宝石の玉が主張する杖を取り出した。
同じくしてラーミアルも腰元にある打刀を掴んだ。柄を数センチ持ち上げ、刃区から伸びる刃に日の光が当てる。すると、刃の金属光沢により赫赫たる陽を拡散させる。
漸進的に抜刀すると、変幻自在に刀を操り、華憐に踊らせる。材質、重さ、重心、切先までの長さを感覚的に馴らしているようだ。その間2秒だが、金銭を支払っても良いほどの完成度の高い武芸だ。
「失礼しました」
と、軽く会釈すると、刃先を縦に向ける。
「キミ―、審判は公平に頼むよ。不正での勝者にはなりたくないからね。まー勝つ未来しかないけどね」
「わかりましたっ!」
ラーミアルとスーゲの中間には、戦場を二分する白線が引かれている。その線上に、スーゲに同伴していた兵士の1人が起立している。審判――正式な魔術戦闘の場合、第三者の判定者をつけるのは義務とされる。
ラーミアルは首を上げ、軽く視線を運び辺りを確認する。観客たちは、談笑する者や、どちらが勝つかの賭博している者もいる。その中で目に止まったのは、2人の子供の姿である。
ふーと息を整え、精神を研ぎ澄ませる。ラーミアルは目を閉じ、その時を待った。
「それでは、ラーミアル=ディル・ロッタ対スーゲ二等騎士による戦闘を行う! 勝利条件は、相手の降参、および戦闘不能にさせることとする!」
兵士は手を天目がけ上げると、ぴたっと止めた。会場に甲高い声が響き、一瞬にして闘技場が静寂となった。
互いに見合いながら、戦闘態勢に入る。スーゲは杖を身体の前に出し、ラーミアルの標準を合わせる。一方のラーミアルも打刀を身体の横に移動し、構える。片足を軽く前に出し、腰を落とす。
ラーミアルは全身神経を深化し、狩人の目になった。対して、スーゲは余裕という感情を溢れ出した表情をしている。
興奮が迸り、叫び声が飛び交う――無音の空間。
待つ。呼吸をして待つ。
「はじぃめぇぇぇええーー!!」
兵士の手刀は空を切った。
瞬間、
ラーミアルは大きく回り込むように疾走していた。スーゲとの間合いを意識しながら、駆ける。
スーゲは5メートルほど下がり、距離をとる。指揮者のように杖を振り、閃光を発散させる。突如、宙に漂う3個の奇怪な球体が想像された。直径30センチの球は深い炭色を輝かせ、重厚感のある金属のボールを思わせる。
ボーリングボールよりも二回りほど大きく、数十倍の強度があると言われても可笑しくはない。切断は、特化した強力な機械でも傷をつけられるかが不明だ。
「キミ―、いきますよー!」
3個の球は豪速の勢いで、ラーミアルに向かい散乱する。高速で動き回ることにより、空気を押しつける重低音の鈍い音が鳴り響く。
球は――1個、1個、1個。生物のように標準に突進していく。
寸秒も早く、ラーミアルへ到達した。
球は優しくはない。接触すれば、身体を数十メートルは確実に飛ぶ。複雑骨折、臓器破損。最悪、死に至る可能性だってある。
その球たちを、ラーミアルは目視確認していた。
刃と峰の間の膨らみの部分である鎬地を器用に使い、紙一重で回避していく。鎬と球が接触することにより火花が散り、「ギィィイインンッッ」と金属を削り合う高周波音が轟く。
「重い」
ラーミアルは言葉に反し、スーゲとの間合いを迅速に縮めていく。
各々の球を丁寧に捌く。地上と空中を軽快に移動し、僅かな秒でスーゲを射程圏内に入れた。頬から雫が離れ、大地に触れる。そんな瞬く間の出来事だ。
「はぁあぁぁぁーー!」
天に輝く一筋を振りかぶり、躊躇なくスーゲの頭上目がけ急降下を。
高音の鐘音に類似な、耳鳴りを与える波風が起きた。
「やはり、簡単にはいきませんか」
「キミ―、やはりディル・ロッタ騎士長の娘さんと言うこともあって一味違うねー」
刃が捉えていた的は、寸前で妨げられた。3個の球が三角を作り、スーゲの目の前に盾として浮遊する。
球に意識を注ぐと、ラーミアルを一気に払いのけた。
スーゲは今だ、勝ちを確信した笑みを出している。彼の面持ちは、少女など造作もないという慢心が滲んでいる。
ラーミアルは可憐に態勢を整え、綺麗に着地をしてみせた。汗一つなく清々しさも感じられるが、表情は硬い。
「キミ―、少し本気を出してあげよう」
言葉とともに空に、光輝が散る。
瞬間――空中に冷徹な物質として存在する。それは、6の数字となった。杖を振り、統括するスーゲの目には少女が映っている。
「キミ―、楽しませてくださいね」
「頑張らせていただきます」
ラーミアルは凛とした立ち姿から、機敏に構える。
皆が知っていて、誰も知らない。清澄な瞳の奥で見るのは、この場に存在しない1人の男だった。
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