04話 口論 【1/2】

 時刻はおおよそ14時。

 シュクはラーミアルに案内され、薬屋に向かっていた。


 「朝、都市を出る時に「後でお店に顔出してねっ!」と、薬屋の店主であるコショさんに頼まれたんですよ。コショさんとは3年前に知り合ってですね、それからよくお店に行くようになりました」


 ラーミアルは店主のモノマネをしたのか、一部だけ独特の口調になった。少女の顔を見ると、とても楽しげに話をしている。コショという人物がどうあれ、ラーミアルと親しい仲ということは一目瞭然だ。モノマネした時の口調は気になるが、考えないようにしよう。

 隣を歩くシュクは話半分で耳に入れ、何気なく頷いていた。周囲の家の様子をキョロキョロと、眺めている。


 石造り凸凹とした灰色の地面を踏む。レンガ造り、4階建ての家々。小道は、長く続く家並みによって挟まれている。家の前には観賞用の植物、低木があり、点々と道沿いに置かれている。栽培している植物は、日本にも似ている品種だ。


 2人は相変わらず、擦れ違う人々からは注目を浴びていた。


 「あの子、可愛いわー」

 「まさか、魔術学園の10位の」

 と、ラーミアルに向けられた言葉もあれば、

 「あの女の子、見ない顔だな」

 「ここら辺の子じゃないわね」

 と、シュクを指す内容もあった。


 2人とも気にすることなく、道を進んでいる。ようやく、家並みが途切れ、広い空間に出られることがわかる。そこからは、前方から賑やかで活気のある音が入り込んでくる。音は徐々に大きくなる。

 視界から壁が無くなると、全身に快い日の光を浴びた。少し目を細めた視界に映るのは、大勢の人が行き交う広場だ。


 この広場は、都市アルヴァードの中心部に位置し、商売が盛んなエリアである。

 威勢の良い商人の声や、仲良く話し合う会話。また、数人組で様々な変わった楽器で、自然に溶け込むメロディーを奏でている。快適で素敵な音には、惹きつけられる効果があるらしく、安らいだ面持ちの人も多い。

 果物、野菜、日用品、アクセサリーなど様々な種類のお店。食べ歩きができるフードやデザートを提供するお店もある。中には、見た時ない昆虫を売る需要の低そうな店もある。ちなみに、昆虫のお店は盛況だ。

 およそ30店舗が広場を貸し切り、フリーマーケットのようにお店を開いている。地面に書かれた白い線は、自分たちの店の敷地を示す印のようだ。売り子をするのは、老若男女問わず様々だ。


 「この広場を過ぎて、5分程で目的地に着きますよ。コショさんのお店行った後に、私の住んでいる女子寮に行きましょうか。私の小さい頃の服と靴で良ければ、使ってください! このままですと、いろいろと問題があるので」

 「別にこのままで」

 「使ってくださいますよね?」

 「いや、別にいいですよ」

 「つ・かっ・て・く・だ・さ・い!」

 「はい」


 ラーミアルは威嚇する猛獣を思わせる、笑みを浮かべている。シュクは頬を掻き、無気力な目で返事をした。否定を続けても結果が変わらないことをわかりきっているからであろう。


 「ちょっと寄り道していきませんか?」

 「ついていきますよ」


 広場を横切る道から、人で賑わう中心部に向かった。中へ中へと進む。2人は店の中央に走る狭い通路をゆっくりと歩いている。


 「ここのお店の焼き菓子美味しいので、後で買いに来ましょう!」

 「さっき食べたばかりじゃ」

 「女の子は甘いモノならお腹が気持ちを入れ替えてくれるんですよ!」

 「お腹なの!?」


 他愛もない会話をしながらお店を一つ一つ眺めている。

 暫くしていると、2人の背後が何やら騒がしいことに気がつく。怒号――甲高い男の声が辺りに響いていた。

 声の方へ辺りの人々は振り返る。その先には、広場の片隅の店にいる4人がいた。

 1人は店の関係者だと思う。関係者は見るからに、シュクの同年代くらいの容姿をした少年だ。予想するに親の手伝いで店番をしている、というところだろう。

 一方で少年の前にいるのは、3人の大人だ。

 1人は物静かな黒色に全身を包んでいる。戦士というよりも貴族を思わせるれた気品のある正装をしている。そして、地位が高い人間に媚びることが得意そうな顔つきの男だ。背後には、銀色の甲冑を纏い、腰に剣を引き下げる兵士が2人いる。

 彼らの胸元には行政認定の紋章が刻まれていることから、王都に所属した人間ということが確証できる。


 子供なのを良いことに、言葉攻めをする黒衣装の男。その様子をシュクとラーミアルは何事かと見ていると、傍らから声をかけられた。穀物を売る店の持ち主である、おばさんだ。


 「あれはココのエリアを管理しているトップの男だよ。あいつに目をつけられたらココで店を開くことは出来ないからね。皆、見て見ぬふりをしているんだよ」


 おばさんは口の前に手を置き、会話を聞き取られないようにしている。

 シュクは「そうなんだー」という危機感のない顔でいる。隣にいる美少女は違うが。

 ラーミアルは「ありがとうございます」と、告げた。そして、前方に足を進める。


 「おっ、おい。騒ぎを起こすんじゃないよー! タダじゃ済まないからね!」


 おばさんの言葉にラーミアルは、軽く会釈し、再び彼らに向かう。

 熱く摯実なターコイズブルー。炯眼の美少女に笑顔はない。

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