第5話 正体がバレた!

 異世界……

 

 ファンタジーものはどちらかというと好きだし、想像するのは楽しいものだ。

 しかし毎回思うのは、なぜ言葉が通じるのかということだ。言葉というのは文化の一部であり、地球の中ではもちろん、なんなら同じ国でも違う言葉を使うことさえあると聞く。それなのになぜ異世界という全く違う世界で言葉が通じるのか。この点についてはいつも心の中でツッコミを入れてから読んだり視聴したりしていた。


 しかし、いざ自分が異世界に来てみると言葉が通じるのだからしかたない。私がこれまで読んだり視聴したりしたファンタジーものの主人公も同じだったのだろう。

 まあ、言葉が通じなかったら困るしな……


「ねえ、M。聞いてる? おーい」

 驚愕の? 事実が明らかになって固まっている私を心配してティスは私を覗き込みながら目の前で手をゆらゆら振っていた。


「ああ、すまない。大丈夫だ。ちょっと驚いたというか何というか……」

 私は少し冷静になって二人を見た。

 二人はじっと私を見つめていた。

 しばらくしてタクがおもむろに話し出した。

「これは半分伝説みたいな話なのだけれど、Mワールドにはまれにそれまでにはなかった全く新しいもの――テクノロジーや何かの仕組みなど――が突然出現することがある。実はMパッドもその一つだけれど、古い歴史書にもいくつかそういった事象の記録があるんだ。そして規模の大小はあるものの最近はその頻度が昔より高くなっているらしい。それらはどうやってこのMワールドにもたらされたのかよくわかっていない。でも一説には別の世界の人間がもたらしたのではないかともいわれている。もしかして、君はMワールドの別の地域の人間どころか別の世界の人間じゃないのかい? さっき言っていた『地球』というのが君の世界なのかい?」


 なんてこった。異世界転生って現実にあることなのか――いや、まだ多くの人がここに来ていると決まったわけじゃない―それより、あっさりと私の正体が異世界の人間だとバレてしまった。これから私の身はどうなってしまうのか。実験台になるなんて嫌だ。逃げるか…… でもどこへ……


 いろいろな思いが頭の中を巡ったが、今の私に一体何ができるというのだろうか。

 

 ところが、そんな私の心配とは裏腹にタクは弾んだ声で言った。

「すごいね! これは大事件だよ。別の世界から来た人に逢えるなんて!!」

 これまでどちらかというとおとなしい印象だったタクはどうやら好奇心が限界を突破して舞い上がっているようだ。


「でも、私は何か特別なことができるわけじゃないよ。何の期待にも応えられない」

 私は遠慮がちにそう言った。

「そんなことはないじゃないか。Mパッドを使えるだけでも僕たちから見れば特別な能力だよ。ひとまず食事を済ませてこれからどうしたらいいかゆっくり考えよう」


 タクの言葉を聞いて、そういえば食事中だったことを私は思い出した。


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