第4話 ここは異世界だった!
「あれ? 表面の様子が変わったね!」
ティスは楽しそうに画面を覗き込んだ。
「もしかして、この板――じゃない――Mパッドは本のようなページはないけれど、今みたいに紙面が変わって違うページが見られるということなのかな」
(やはりこれは情報端末だな)
表示されたアイコンは見慣れないものだが、使い方は基本的にスマートフォンと同様だろう。なぜこれを彼らは使えないのに私が使えるかは今は考えないでおこう。
私はタクの方を見た。
「細かい使い方はともかく、基本的な使い方は憶えているようだね」
タクは嬉しそうに私に言った。
「画面に表示されているアイコンをからいろいろなことができるのだと思う」
私は無意識にそう答えた。
「画面? というのはその表面のことかい? アイコン? とは…… ?」
ティスは私に尋ねた。
そういえばこの家――すべての部屋を見たわけではないが――にはテレビがない。
最近はテレビのない家庭もあるらしいが、さすがにテレビを知らないということはないだろう。ということは画面という言葉を知らないというのはおかしい。
もしかして二人は画面というものを知らないのではないか…… それはなぜか。
私はここで目が覚めてからこれまで心の中で思い浮かんでは否定することを繰り返していたある考えを否定し続けることが難しくなっていると感じた。
ここはいわゆるアレなのではないか。
中二病的なアレなのではないか。
私は疑念を振り払う意味もあって努めて落ち着いたふりをしながら答えた。
「そうだよ。この表面のことを『画面』と言い、そこに書かれることを『表示』と言うよ。『アイコン』とは画面にいくつか表示されているこの印のことだよ」
「なるほど、で、どうするんだい?」
ティスはとても興味を持ったらしくグイグイくる。
私は適当なアイコンをタップしてアプリを起動した。
天気のアプリだった。
現在地と書かれた下に天気予報? が書かれていた。画面はシンプルな構成で天気と気温が書かれているくらいだった。読めない文字があるが、おそらくここの天気と気温の予報なのだろう。
「これは…… ここの天気か。明日は雨だと書いてあるね。だれかの予言が書かれているということなのかな。何日か先まで書いてあるけど……」
ティスは自分なりに画面表示を解釈した。
(予言……)
現代において天気予報を予言と表現する人間がいるだろうか。いるかもしれないが、やはりほとんどいないのではないか。
再び私の心の中には例の疑念が湧いてきた。
「君が操作できるということは、そのMパッドは君のものだということだね。私が聞いた話だと一つのMパッドにつき操作できるのは一人らしいからね。しかし、僕はMパッドの話を聞いた時から何とか実物を見てみたいと思っていたんだ。いろいろな情報を見られるなんて夢のようじゃないか」
タクはこれまでになく興奮した様子で言った。
「兄さんは昔から本が好きだったからね。これを使えば読んだことがない本に書いてあることも見られるのかな。そうだったらいいね」
ティスは嬉しそうに言った。
恩人の二人が喜んでくれているのはうれしい限りだ。
しかし……
例の疑念についてもやもやしたまま放置することはいずれできなくなるのは明白なので、やはりここらではっきりさせておこうと私は決心して尋ねた。
「ところで、Mワールドは地球のどの辺にあるんだい?」
二人はお互いに顔を見合わせてからこちらを見て同時に言った。
「地球?」
「!?」
やはり、ここは異世界だった!
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