ここは異世界?

第2話 異世界なんてあるわけない!

(バタン)


「帰ったよ」

 一人の男? の声がした。

 どうやらタクの弟が帰ってきたようだ。

 私が居るところから入り口は見えない。


「さっき目を覚ましたよ」

 タクの声がする。


(パタパタパタ)


 こちらに小走りで向かってくる音がしたと思ったらひょこっと顔が現れた。

「やあ、おはよう。体の具合はどうだい」

 彼は気さくに私に話しかけてきた。


「少し疲れている気がするけれどそれ以外は大丈夫――いや、体は大丈夫なのだけれど、なぜこの近くに倒れていたのか記憶がないんだ。ここはどこなんだい?」

 とりあえず自分の体の心配がいらなさそうだった私は今の状況を把握するために彼に尋ねた。


「ちょっといいかな」

 いつのまにかタクが部屋の入口に立っていて声をかけてきた。

「昼食の用意ができたし、お互いの紹介もまだ十分じゃないだろ? ひとまず食事をしながら色々と話をしようじゃないか。僕も聞きたいことがたくさんあるし」

 確かに少し空腹を感じる。ということはやはり体の具合は悪くないのだろう。私はなんだかホッとした。



 ――



 食事は三人分用意されていた。

 私は促されるままタクの向かいの席に着いた。

「さて、まずは弟を紹介するよ。こちらは弟のティス。前にも言ったけれどここには二人で住んでいる。今はここでほぼ自給自足の生活をしている。でもこの辺には食べ物は豊富にあるから君が増えても大丈夫だ。その点は心配しなくていい。家は広くはないが君が寝ていた部屋は元々空いていたからそのまま使ってくれて構わない」


 タクは話し終わるとティスの方を見た。続いてティスが口を開いた。

「君はこの近くの人じゃないよね。この辺に住んでいるのは僕ら以外は他にいないし、最近誰か来たという感じもない。とはいえ持ち物を見る限り遠くから来たという感じもしない上に一番近い町までも距離があるから不思議に思っていたんだ。町から来たのかい? 名前は? どうしてこの辺りに来たんだい?」


 どうやらティスは好奇心旺盛な性格のようだ。矢継ぎ早に質問をしてきた。

(何から話したいいものか……)

 私は自分でも何が何だかわからないながらも慎重に言葉を選び、答えた。

「さっきも言ったけど、なぜこの近くに倒れていたのかはわからないんだ。それと私はこの近くに人間でも君たちの言う町の人間でもない…… と思う」

 二人は顔を見合わせてからタクは言った。

「思う? というのはどういうことだい? どこから来たのかわからないということかい? そういえば目覚めたときに『気づいたらここに居た』と言っていたけれど、もしかして記憶があいまいなのかい?」

 少し心配そうな顔をしながらタクは言葉を続けた。

「名前は憶えているのかい?」


「名前は…… M…… だ。それは憶えている。」

 まだ状況がよくわからない今の段階ではどこまで話していいかわからない。しかし心配そうに私を見ている二人を前にあまり心配をかけても悪いと思った私は自分の名前を言った。


「あまり聞かないタイプの名前だな、どの地域の名前だろう。兄さんわかるかい?」

 ティスはタクに話を振った。

「わからないな。まあ、僕でもそんなに多くの地方の情報を知っているわけじゃないしな。まして名前だけではどの地域か特定するのは無理だろう。ただ、少なくともこの辺やこの地域になじみのある名前じゃないな」


(タクは分析好きなのかな)

 私はそんなことを思いながら話を聞いていた。

 と同時に自分の境遇と目の前の状況を考えた私は――異世界――という言葉が頭をよぎった。



 いやいや、異世界なんてあるわけない。



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