第五十六話・書き換え繧峨lていく、君縺ィ縺ョ
――起き上がろうとしても、身体が自由に動かない。全身が打ち付けられたように痛い。
そして数秒後、ようやく、先の衝撃の理由を知る。
それは車が衝突したというほどではないショック、二人の人間が思い切りタックルしてきたくらいの、強めの衝撃。
この場合は比喩表現は必要ないか。だって、それは比喩ではなく。
僕の四肢を押さえつける、二人の影。
一人は男、もう一人はポニーテールをした女。
僕は二人からのタックルを受けて、そのままひっくり返って押さえつけられたのだった。
しかし、疑問は晴れない。
なんで。
なんで!
「真衣ッ!! 離せ、離せよッ!!」
僕に馬乗りになって、両腕を抑える女、それは僕の実の妹。
足を押さえているのは学友の航一だろう。
「離すわけないでしょっ!!
お兄ちゃんが死ぬなんて、そんなの許せるはずないじゃんか!!」
真衣は涙で顔をぐちゃぐちゃしながら、僕を必死に押さえつける。
真衣の涙がこぼれて、僕の頬を伝い、流れ落ちていく。
……あぁ、そういうことか。
夕雨。お前は妹に全部話してたんだな。
今日、僕が死ぬことを。
そして、未来から来た自分ならば、僕を救えるのだと。
わざわざ慣れない賭け事までして、真衣は、改めてお願いしたってことかよ。
――私のお兄ちゃんのために死んでください、と。
「お前、ノーサイドじゃなかったのか」
「うん。私はお兄ちゃんの味方でもない、あの人の味方でもない。
私は私、お兄ちゃんの妹。それ以外の何者でもない!」
それは、一昨日風呂場で聞いた台詞に似て。
ノーサイドで、シスターサイド。
妹は、あくまで妹。
妹は妹のために、兄を救う。他の誰かを、犠牲にしてまでも。
それに夕雨を『あの人』呼ばわりとは。
夕雨、お前の計画か。
記憶の薄れた状態ならば、迷いも生じさせずにただ兄を救うことだけに専念させることが出来るから。
そしてこれは、僕の油断なのだろう。
僕に人生が僕だけのものだと勘違いしていた、僕の。
「――で、航一、お前はなんなんだ」
覆いかぶさる妹の陰に隠れている男。まさか僕の父親でもあるまいし、見えなくても正体なぞ知れていた。
「俺も同じだ」
「お前は僕のために他人を犠牲にしてもいいってのか!?」
「いいか、理太。
人ってのは平等に不平等だ。
命の重みってのはそいつとの距離に比例するんだ。彼女の命は、俺には遠い。それだけだ」
「てめぇッッ!!」
僕は内臓でふつふつと煮えたぎるような怒りに任せて手足をばたつかせるも(正確には、ばたつかせようとした)、まったくもって動きがとれない。完璧に関節を決められている。人間の構造上からして、絶対に身動きの取れない状態。
「諦めて、お兄ちゃん。お兄ちゃんはあの人の彼氏である以前に、私のお兄ちゃんなんだから」
「真衣。許さねぇからな。例え全部忘れたって、僕はお前を憎むぞ」
睨みつける。
しかし、真衣は一切動じることなく。
「言ったじゃん。
私は私がなんと思われようと、妹であり続ける。
私はお兄ちゃんが好きだから。
それだけで……、いい」
それが、妹の結論。
妹の、人生。
とんだブラコンである。
だからといって、それがどうした。
僕は背中を打ち付けた痛みと関節を決められている激痛を堪えながら、もがく、もがきつづける。
「夕雨ッ! そこを
叫ぶ。
「夕雨! 夕雨――!!」
喉がからからで、血の味が溢れてくるけど、それでも、僕は叫び続ける。
「頼む、頼むから僕を置いていいかないでくれよ――」
なんと自分勝手な、とは思うけれど。
それでも僕は叫ぶのだ。
しかし。
視界の片隅に入ってくる無機質な光、車のヘッドライト。
――やめろ。やめてくれよ……。
僕の願いは裏切られ、電気モーターの甲高いエンジン音は、止むことなく、光は加速度的に強くなっていく――。
交差点はまだ青信号。されど近づいてくる車の気配に、やがて通行人たちが騒然となって、一目散に逃げていく。
その中に、夕雨はいない。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。
やめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれ。
車は自動運転だ。だからこれはきっとシステムの誤作動。
だから、ここに悪者はいない。
それでも、僕は歎願する。
「頼むから、僕の終わりを奪わないでくれ――!」
その時、妹の押さえる力が微かに弱くなる。その隙を見逃すわけもなく、僕はすかさず身体を捩じって上半身を自由にすると、航一をぶん殴って、全身の自由を確保する。
すぐさま身体を起こして彼女の方へと駆けだそうと――。
――でも、それは遅すぎた。
彼女の方へ向き直った視界に、青信号の交差点に突っ込んでいく自動車。
ヘッドライトに照らされた夕雨は、悟ったように瞳を閉じて、道路に座り込んだままで。
彼女は交差点の真ん中。
たった三メートルほどの距離。涙の跡が見えるくらいなのに、その距離が、今は遠くて。
「――――!!!」
声なんて出なくて。
僕はどうしようもなく無力で。
引き延ばされた瞬間のなか、手を伸ばす。
届かない。
お前は死ぬんだぞ、消えるんだぞ。
歩いてきた道に、足跡さえ残らない。
そんなことってあるかよ。
命懸けて過去まで来て、その結果が、こんな、こんな、終わりさえ無い……。
無。
僕がお前と紡いできた
『どうも、美少女で縺。繧医m縺励¥お願い縺励∪ます』
『どち繧でも縺?>縺ァ縺よ。すべ縺ヲは理太さんの諤昴≧ま縺セ縺ォ』
お前のいない一か月に。
『とに縺九¥縲√o縺代〒縺励◎縺?>縺?※、メイド縺ィ縺て理太さん縺ョ縺願レ荳ュ繧流させ縺ヲ縺?◆縺?縺阪∪縺』
『遘√r縲惹クュ蜿、縲上↓縺励◆雋ャ莉サ縲∝ソ倥l縺ェ縺?〒縺上□縺輔>縺ュ窶補?』
――お前のいない未来に。
僕にはもう読めないその日々は、でも確かに存在したその日々は、伸ばした手からこぼれ落ちていく。
もう、終わりだ。
視界が、世界が、白く染められていく。
あぁ、螟暮岑。
僕は、ただ、君と――。
――ぐしゃり。
それは生物がただ肉塊と成り果てる音。
目を開けたくはなかった。
だけど、僕は見た。
それは、彼女の死を見届けるためではなく。
その直前に。
僕は見たから。
――見覚えのある人間の姿をした、もう一つの
彼女を突き飛ばして車の前に飛び出す、当然の
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