第四十八話・日常大戦争 妹乱入編

 戦争中といっても、もちろん僕の日常は変わらずにある。

 というかむしろ日常が主戦場であると言ってもいい。


 やっぱり、きゅんとする仕草って日常にあるものだろう。


 寝言で僕の名前を呟いてくれたり、ふとした瞬間に手を重ねてくる瞬間だとか(もちろん僕から手を重ねることだってある。いつまでもヘタレだとは思うなよ!)。

 こうして僕のフェチが次々と増えていく日常、その一幕。


 遊園地デートの二日後、つまり七月二十日の日曜。彼女の言ったタイムリミットまで、あと二日に迫った日のことである。


「お兄ちゃんのカノジョさん、おひさぁ~」


「お久しぶりです、真衣さん」


 出番少なめだった妹が久しぶりに登場した。日曜、というか来週から夏休みなはずなのにご丁寧に学校の制服セーラー姿。

 妹たるもの、きちんと自分の属性を理解しているらしい。なんとも頼もしいことである。


 妹にもこれまでの事情(未来云々は抜きにして)はあらかた説明してある。つまり今回はその件での訪問ということだろう。二人きりで過ごしてやれ、と言ってくれた爽やか航一くんとは対照的な対応である。

 まぁ、僕からすればどちらも嬉しいんだけどさ。


「お兄ちゃんのカノジョさん、相変わらず可愛いねぇ」


「ありがとうございます」


 ぺこり、夕雨は頭を下げる。

 僕、少し誇らしげ。


「主語が長いわ主語が。これで文字数稼ぎしようだなんて甘い考えはやめた方がいいぞ」


「そんなんじゃないって。ねー? ヘタレお兄ちゃんには不釣り合いな超美少女のカノジョさん?」


 夕雨が頷いたのがやや予想外であった。


「いや、なぜ僕をディスる方向性で名前が伸びてるんだ」


「根性無しで根はあんまり成長してないのにわがままを突き通そうとしている愚かで愚昧で愚鈍な好感度低めなお兄ちゃんとは違ってずぅっとお兄ちゃんを想い続けてくれている健気なカノジョさん、昨日送った服はどうだった?」


 僕への悪口のバーゲンセールであった。


「……僕、何かいけないことしましたかね」


「妹と兄との立場を再確認しようと思って」


 跪く僕の前でふんぞり返る妹。

 悲しいかな、胸部装甲の薄さが目立っているぞ、と負け惜しんでみたり。


「んで、僕と夕雨の愛の巣に何の用だ?」


 形式美として、問う。


「そんなの分かり切ってるでしょ」


 まぁ、だよな。どうせ僕へのクレームだろう。戦争をふっかけながら、その負けを予感してしまう僕へのお叱り。

 妹はあの雨の日のように、僕が失踪してしまったあの夜のように、ツンツンしながらも、僕の背中を押してくれるのだろう。

 ――まぁそれが甘い考えだったと分かったのは、数秒後のこと。


「遊びに来たんだよ。それしかないじゃん」


 つまり、予想を裏切られたのだった。


「マジで?」


「マジ。そう都合よくお助けキャラなんて望まないことだよ、お兄ちゃん。

 前とは違って、今回はゆうちゃんからもゆっくり話を聞けたし。お互い好きなコトやってんなら私が口を挟む必要なんてないでしょ?  

 要はどっちが根負けするかの話なんだから、私はノーサイド。面白おかしくお兄ちゃんを罵倒するだけだよ」


「完全にイエスサイドじゃん!?」


 さて、ノーサイドの対義語がイエスサイドなのかについては後々議論するとして。

 夕雨から話を聞いた、ねぇ。もしかしたら、未来から来たとかいう話も聞いていたりするのかな。

 まぁ、ガールズトークに首を突っ込もうと思うほど、僕は無粋ではないのだ。

 展開に僕を登場させるほど愚かでもない。


「とにかく、私は遊びに来たんだから、楽しませてよねっ」


 そう言って僕のベッドに飛び込んで、気持ちよさそうに手足を伸ばす妹。

 そんな妹を見て、夕雨が僕の耳元でささやく。


「真衣さん、本当に理太さんが好きなんですね。会話の半分以上は理太さんの話でしたから」


「そこまでいくとちょっと怖いけどな。まぁ、そうだね。ウチ、ちょっと親との関係があまりよくないからさ。その分僕を頼っていたし、僕も妹を頼っていたんだ」


 だから、僕の小中学校の思い出のほとんどには妹が登場する。だから確かに僕はぼっちだったけど、一人きりではなかったのだ。


「これからも仲良くしてくださいね。本当に兄思いの……、いい妹さんですから」


 何か含みのある言い方。だから僕は


「あぁ、もちろん。と妹は、僕の宝物だからな」


 アイラヴユー。

 『3980円』の夕雨。

 それは僕の大切なカノジョで。


 マイシスター。

 興野麻衣。

 ――心配性な、僕の自慢の妹だ。





 

 

 

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