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「――この階段、覚えてる?」
そう言って、彼女は、懐かしそうに目を細めた。
「覚えてるに決まってるだろ。僕らのスタート地点みたいなとこなんだから」
「ふふっ、そうだよね。
私ね、ここを上るたびに嬉しくなるの。あの時の理太はかっこよかったな〜。
『僕のカノジョになってください』って!
あの有無を言わせない感じが良かったなぁ」
「なんだよ、優しいのが好きとか言ってたくせに」
「ずっと甘いもの食べてたら胃もたれするでしょ? だからたまには刺激物も欲しくなるってこと。まだまだ乙女心が分かってないね」
「んなもん心理学者にでも研究させとけばいいんだよ。僕は僕の道を行くんだ」
「私がこっち行こって言って遠回りさせた道が自分の道なの?」
「そ、そうだよ! ったく譁�隱が自分勝手過ぎるんだ」
「いいんだよ、人間は自分勝手で」
「.......それを実現したいがために日本一の大学でロボット工学してるってんだから変人だよな、お前」
「変態?」
「かもな」
「.......理太?」
「なんだよ」
「大丈夫?」
「なんだよ急に」
「だって.......なんで、泣いてるの?」
「ん.......? あれ、なんでだろ、目にゴミでも入ったのかな」
「理太も嬉しくなったんでしょ。ここで告白が成功してさ」
「告白が成功.......そうだよな、告白は成功したんだよな」
「な、なに? 急に辱めようとしても無駄なんだからねっ」
「そんなこと思ってないって.......。
なぁ譁�隱? 僕らさ、ここで告白はしたけど、キスはしてないよな?」
「な、何言ってんの?
セクハラで訴えるよ」
「交際関係にある男女がセクハラで揉めるとか世も末だな」
「もう、変なの。私たちが屋外でキスなんてする訳ないじゃん」
「そうだよな.......うん。なんかドラマとかと記憶がごっちゃになってんのかも。ごめんな」
「.......じゃあ、家で、する.......?」
「やぶさかではないな」
「じゃあしてあーげないっ」
「.............」
そうだ。
僕のカノジョは一段上で悪戯っぽくはにかむ彼女だ。
――僕たちは、決して。
ここで重なったことなんて、ない。
はずなんだ。
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