第十九話・僕の不必要な迷い

 というわけで『夕雨の好きなこと探し』と『僕のカノジョづくり』が同時進行し始めたわけだけど。


 帰宅したメイド姿の夕雨は、キッチンで買ってきた果物(メロン・スイカ・その他いろいろ)を包丁でカットしている。

 腰の黒リボンがふわりと揺れる後ろ姿を見るだけで、こう、心が浮足立って、ソワソワしてしまう。

 それは彼女がメイドだからか、それとも彼女をカノジョにするという話が効いているのか。僕には判別がつかない。

 心の真ん中に据えるものがないからこその、不安定さ。

 それがよくないことだって、そんなのとっくに知ってるさ。


「後ろから視線を感じます。何か御用でも、ご主人様」


「……後ろにセンサーでもついてるのか」


「メイドたるもの、そのくらいは必修ですとも」


「メイド歴数時間だけだろ……」


 まぁ、それまでも似たような関係ではあったけど。

 ちなみに夕雨のメ〇カリ購入事件については既に航一に説明済みだ。流石に驚いてはいたが、第一声が「面白いな」だったのにはこちらが驚かされた。「お前と彼女がよければいいんじゃないか」とも言っていたな。

 つくづく出来た人間だ。当世の出木杉君は航一で決定であろう。

 

 さて、そんな彼に(加えて不肖の妹にも)カノジョを作れと言われたのだから仕方なく――。


 というわけでもなく。


 今の自分が十分に情けないことは理解しているし、それをなんとかしたいと思っているのは事実だ。

 その手段が男女交際というのは疑問を覚えなくもない――というか疑問と不安しかないのだが、先ほど秘密裏にヤフーの知恵袋で、


『男女交際したら自信が付きますか』


 と投稿して、


『さては童貞だなオメー』


 との返信があったので、ネットへの信頼感がますます低下したところである。


 ……文脈とは、いったい。動揺しすぎか僕。


 兎にも書く――角にも、全て行動してから考えろということらしい。

 とはいえ行動と言われても、一体何をすればいいのだろうか。スウィーティーな台詞でも吐けばいいのか。


『――ヘイガール? ボクとひと夏のイケナイメモリー、一緒にメイクしない?』


 ……こんな芸風の人間どこかで見たぞ。


「いやぁ、でもほんとあんな金髪美少女ちゃんと同棲だなんて羨ましい限りだよ」


 航一がせっせと働く夕雨を見て呟いた。


「お前だってその気になりゃハリウッド級の美女連れまわせるだろ」


「その気にならないといけないじゃないか」


「……僕から言い出したことだ。『否定しろよ』というツッコみは控えるが、お前のその性格、ほんと羨ましいというか、なんというか」


「正当な自己評価と爽やかさがあれば誰でもなれるさ」


「僕にその爽やかさを分けてほしいよ」


「いや、お前に必要なのは前者だろ。ったく、つくづく面倒な性格だな」


 肩をすくめる航一。

 それに同意するように、夕雨の隣でキッチンに向かう妹のポニテもうんうんと頷いている。


「いや、自覚はしてるつもりだけど、そこまでか?」


「そりゃあ不思議系ヒロインとお前だけの語りじゃ見えてこねぇかもしれねぇけど、結構なものだぜ? 厄介さでいえば、窓開けてると虫が入ってくるけど窓開けねぇと暑くて仕方ない夏の夜レベルだね」


「う……結構厄介だな……」


「だろ? それをなんとかするためにも夕雨クーラーが必要だという話さ」


「嫌な読ませ方するな!」


カノジョクーラー


「カタカナにカタカナのルビを振るのもやめろ!!」


 読みづらくて仕方ないんだよそれ。


「いい説明だと思ったんだがなぁ……。

 ま、あんないい娘貰わなきゃ、男の風上にも置けないってことが言いたいのさ」


 ――クーラーだけに。

 そう彼は得意げに続けた。


「既に買い取ってるんだけどな……」


「『3980円』でか? ほんと面白い話だよな、それ」


 彼は愉快そうに笑う。不思議ではあれ、面白くはないと思うんだけどな。


「で、そんな夕雨の反応を見る限り、僕がもし告白したとして、断るようなやつじゃないと思うんだけど、そこはどうなんだ」


「それだけ今の自分が好かれているという自信があんのか、意外だな」


「そういうことではなくだな……なんというか、あいつは従順なんだ。言ったことには逆らわないというか」


 万に一つ、僕が告白したとして、彼女の答えは九十九%「YES」だ。それもどうせ即答だろう。

 果たして、そうして得た返事が僕にとって、彼女にとって、幸せにつながるものなのか。僕は確証が持てない。


「うーん……所有被所有の関係か……。

 でも確か、彼女、そういう話についてはやけに頑固だったんだろ?」


「うん」


 あなたのもの。

 あなたの好きなコト。

 彼女は言った。


「関係性が変わるようなことなら、彼女さんも反応してくれるんじゃないか?

 というか女の子なんだし、流石にそこのあたりの話には反応してくれるだろ」


「そうかなぁ……」


 過去が過去だからなぁ……。


「ま、そこらへんは興野妹に任せればいいだろ。きっと女子同士の話で色々言っておいてくれるはずさ」


「うーん……なんか複雑だなぁ……。僕が変わるために三人を利用してるみたいで」


 言うと、航一が僕の頭をぽかりと殴った。


「イタっ!」


 加害者を見ると、そいつは呆れ顔でため息をついていた。


「はぁ……理太あのな、俺と興野妹は確実に自分自身のためにやってるし、あの娘はそういうの気にする子じゃないんだろ? 一緒にいるお前が変われば、まわりまわってあの娘のタメになると思っとけ」


「……自分自身のため?」


「友達の恋愛沙汰とかめちゃくちゃ面白いだろ」


 にやにやと口角を上げて言う航一。確かに楽しそうではあるが――それはそれで腹立つ。

 と、僕が憤慨していると、


「ご主人様がた、毒性パフェが出来ましたよ」


 台所から夕雨の声がした。


「んなもん食わせるな! 殺す気か!?」


 間髪入れずにツッコむ。


「お二人様は保険に入っていると確認が取れましたので」


「それは保険金目当ての犯行ということか!」


「――ということで、特製パフェです」


 自らのボケに満足したような顔.......ではなく、いつも通りのフラットな顔つきで差し出されたのは、先述したように、メロンやスイカなどが豪快にぶっ刺さった豪快パフェ2つ。もちろん片方は航一の分だ。

 なるほど、航一のための買い出しだったってわけか。


「お兄ちゃんの甘党に合わせて作ったんだからねっ!

 航一さんには少し甘過ぎるかもしれないけど.......」


「安心してくれ興野妹、女の子が作ったものならなんでも食える」


紳士ジェントルなのか変態クレイジーなのか分からないなお前は」


「変態紳士なんていう言葉もあるというぞ」


「つまりそれがお前だと」


「ま、この際どちらでもいいじゃないか」


「大違いだ!」


 『変態』『紳士』『変態紳士』。

 3分の2で僕の唯一とも言える仲のいい知人――友人が違法性の高い存在になってしまうではないか。

 

 流石にそれはご勘弁いただきたい――思った、その時。


 ――僕の口元に、鈍く煌めく、棒状の何かが突き出された……!(申し訳程度の引き)

 


 



 







 

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