第十七話・僕と彼女と妹と知人のメイド空間(その2)

「……どういうことか教えてくれるかい、メイド妹よ」


 問いかけるは、絵に書いたようなフリフリのメイド服を身にまとい――ホワイトブリムまで着用している徹底ぶりである――ぐんぐんと顔を赤くしている、妹君。


「な、ななななんで出村さんまでいるの!? これじゃ私アホの子みたいじゃん!」


「いや、兄の家で全力メイドしてる時点で弁解の余地はないと思うけど」


 全力メイド……なんか漫画でありそうだな。この場合主人公は恐らく男の娘だろう。


「いいじゃんいいじゃん。妹ちゃん、似合ってるよ」


「くっ……笑顔が眩しい……ッ!」


 グッと親指を立てた航一の笑顔を避けるように、持っていた銀のトレイでささっと顔を隠す妹。


「……というかなんでメイド?」


 純粋な疑問。


「そ、その、LINEで色々聞いた時に、夕雨ちゃんが『メイド服着てみたいです』って」


 トレイから少し顔を覗かせて、妹。


「LINE? こいつ携帯なんて持ってないぞ」


「お兄ちゃんのでやってる」


「いつの間に.......!」


 全く気づかなかったぞ。


「パスコードとかよく解けたな」


「そりゃお兄ちゃん《じぶん》の誕生日なんて安直な数字なら誰でもわかるよ」


「――お前、じぶんの誕生日試して惨敗したろ」


 0909、それは妹の誕生日。

 しかし正解は1225である。


「そ、そんなことするわけないしっ!」


 再びトレイ裏に身を隠す妹。もちろん胴は丸見えなんだけど。

 図星だったか、可愛いな、妹よ。

 メイド服は結構似合ってるとは思う。

ただ、それ以上の存在が後ろに控えているだけで。


「――おかえりなさいませ、ご主人様」


 優雅に、気品に溢れる礼を見せたのは、もう一人の金髪メイド・夕雨である。まとう空気からして、妹とは違う。

 妹がメイド喫茶の店員(二年目)だとしたら、こちらは英国の敏腕召使いという感じ。


「……こ、こりゃ凄いな……作りモノみてぇだ。

 うちの女中さんより女中してるぞ、この


 圧倒的なクオリティに航一も目を見張る。

 航一からナチュラルに女中さん発言が飛び出したが、今ツッコむべきはそこではなく、彼女らにメイド姿をしている真意を問うべきなのだが……どうにも意識が夕雨に向いてしまって、声が出ない。

 

 基本的にシャツばかり着せている――いちおうオシャレ用の服もあるが、何より着こなしがアレなので着せていないのだ――ので、ピシッとふわっと、統一感のある衣服に包まれているだけで彼女の魅力が大幅上昇している。

 加えてあまり感情のない顔に、メイドのギャップ萌えをプラス。そして眩い白ニーソと太もものマリアージュ……ッ!

 そこら辺に転がっている御曹司程度ならばイチコロだろう。


「理太さん、私に惚れているのですか?」


「え、あ、ん?」


 唐突に話しかけられたせいで、うまく言葉を返せない。

 普通なら「自分で言うな!」とツッコむところなのだが……認めてしまえば、その通りで。

 

「素直に褒めるのは男の役目だと思うぞ、理太」


 航一が僕を見てニヤケながら言う。

 一瞬、性転換手術を考慮するが、この短時間で出来るわけもなく。

 どうやら、覚悟を決めなければいけないようだ。

 童貞が女の子に向かって可愛いと褒めるのは結構なプレッシャーなんだぞ? 嫌われたらどうしようとか、色々考えてしまうのだ。


 とはいえここで何も言わなければ男が廃る。

 ゴクリと唾を飲み飲む。

 僕は意を決して、


「に、似合ってると思う……」


 言うと、夕雨は俯きがちに、微かに頬を朱に染めて、


「……ありがとう……ございます」


 あー、可愛いなぁ! この娘がメイド喫茶で働いていたなら月五万くらい貢いでしまいそうなくらいに可愛いぞおい!


 夕雨と見つめ合うこと数十秒。


「――お兄ちゃん長い。ラブはもう終わりなんだから、あとはコメディして」


 と、妹はジト目で言った。


「ラブコメって普通ラブ五割コメ五割じゃないのか」


「ラブ二割コメ八割って言ってたよ」


「誰が!?」


「航一さんが来たのは想定外だったけど、とにかく今日は夕雨ちゃんの好きなこと候補その六『メイドになる』を実現するために私もひと肌脱いだんだから、二人も協力してね!」


 キミの場合は着重ねした、という感じだが。


「つかその服買ったのか?」


 ゴシック調のメイド服。給仕服というにはあまりに派手でフリフリしているそれ。日本のクールな文化の象徴。

 見た感じ作りはしっかりとしていて、そこまで安いモノではないと思うのだが。


「去年の学園祭でウチのクラスメイド喫茶やったから、その時の衣装を借りてきたの。ま、お兄ちゃんは来てくれなかったケド」


 ツンと唇を尖らせて、半目で責めるように見つめてくる妹。

 確かに言う通りで、僕は文化祭に誘われたのにも拘わらず行かなかった。妹のメイド服を見に兄が単身乗り込むなんて、恥ずかしくて出来なかったのだ。。大学生になると、高校生特有の熱気がキツくなるのだ。

 当時は適当に「行く行く」と言っていたので、妹のご機嫌を損ねてしまったという事件があったのだ。

 どうやらまだ根に持っているようだな。


「その件はガリガリ君で勘弁してもらったはずじゃ」


「76円でどうにかなると思ってたの!」


「出し過ぎかなって思ったくらいだ」


「お兄ちゃんのバカっ! 硫酸の池に投げ込んでやるっ!」


「お仕置きのレベルが尋常じゃないぞ……」


「硫酸なら用意できるかもしれないぞ」


「航一も話にノッてくれるな! お前ならやれそうで怖いわ! ――とにかく今ここはメイド喫茶なんだろう? 部屋に案内とか、ドリンクサービスとかないのか」

 

 そんな僕の質問に夕雨が答える。


「全部セルフサービスです」


「それじゃあただの帰宅に息抜きの一杯じゃないか!!」


「全部メイドさんに任せてしまおうというのですか」


「そうだ! メイドの意味調べてこい!」


「――死者が行く暗黒の世界。別名、冥界」


「それは冥土な!!」


 僕を殺す気か。


「IN CHINA」


「それはMADE!」


「「おおぉ~」」


「ツッコみをひとりに任せるなお前ら!!」


 拍手してる暇があるなら手伝ってくれよ二人とも……。ツッコみってのは結構エネルギーを食うんだぞ? そのうちツッコみダイエットが開発されそうなほどに。

 その結果日本は未曽有のボケ不足に……。


 ……安心しろ。いつでも俺はボケに回るぞ。


 だからモノローグを読むな航一! つうかよく読めたなこの思考!


「ま、お兄ちゃん。入って入って。実は色々と用意してるの」


「だったら早くいってくれよ……特にメイド要素も無く一話分終わるぞ……」


「これから期待してて。十話分くらいのボリュームを用意してるから」


「多いな!?」


 メイド回、あと少し続くらしい。


 ちなみにメイドの恰好をした理由はテレビで見かけたかららしい。単純な性格でよろしいこった。

 








 


 

 

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