92、リーヴァル・レインヴェール
ヴェネは空間跳躍を駆使して死角を突きつつ絶え間なく攻め続ける。対してリーヴァルは、その小柄な体躯を猫のように翻して器用に避け続ける。
(ちっ……ちょこまかと)
優勢を保ってはいても、有効打を与えられない。が、焦ったら相手の思うつぼだ。逸る心を律しながら攻撃を仕掛けていく。
空間跳躍という超能は、便利だがけして強力無比な〝力〟ではない。その要因として、ほんの数秒程度ではあるが間隔を空けないと連続で使用出来ない事が挙げられる。
一瞬で距離を詰めて死角から攻撃すれば、大抵の相手はその一撃だけで十分な成果を出せるだろう。が、それだけで決め切れなくなると連続使用が出来ない、という特徴が大きな枷となるのだ。
実力差が少ない相手だと尚更で、攻防は十数秒に亘って続いた。けれど、その幕引きはそれまでの攻防と比して呆気ないモノだった。
「きゃうっ!」
空間跳躍したヴェネへの対応がコンマ数秒遅れたリーヴァルの体躯を、勢いそのままに地面に叩き伏せられた。がん、と顔を床に強打され、ぼたぼたと鼻血が顔を伝い落ちて行く。
「きゃ、は……ヴェネちゃんってば、女の子は丁寧に扱わな、ぃあっ……」
ぼぎ、と鈍い音。右手を折られ、リーヴァルが掠れた悲鳴を上げる。ヴェネはその右手を乱雑に引っ張りながら言った。
「はっ、女の子? 20にもなって見苦しいな」
「ヴェ、ヴェネさん! 一体何が……いえ、その前に、それくらいにしないと本当に死んでしまいますよ!」
「それが〝燕〟だからね。何か問題ある?」
自分で思うよりも冷たい語り口になってしまった。ミオナが顔をしかめる中、ヴェネはリーヴァルの体を蹴り飛ばす。がん! と椅子を蹴散らしながら床を転がっていく。
「それに、根本的に勘違いをしてるよ。こいつは殺したくらいじゃ死なない……ほら立てよ、〝狂い猫〟」
「……ありゃりゃ、スパルタだぁねぇ?」
リーヴァルはふらりと、けれど確かな足取りで立ち上がる。いつの間にか血の止まっていた鼻を、折れたはずの右手でごしごしこすりながら。
「リ、リーちゃん……傷が、治ってる? ヴェネ君、これって……」
「法術だよ。極めれば、腕を折ったぐらいじゃあっという間に治されるって事。暗示を掛けるのも簡単だろうね」
「暗示って、まさか……」
「そう。あいつが今回の事件の黒幕だよ。そうだろ?」
重役達に、そして当のリーヴァル本人に尋ねる。重役は顔を青くして何度も頷き、リーヴァルはより一層笑みを深くしていた。
「あんなイカれた研究を引き継いで完成させるヤツがいるとは信じたくなかったけど……まさかお前自らが生き延びて研究を続けてたとはね」
「研究……以前言っていた、昔いた組織の話ですか。知り合いなのですね」
「不本意ながらね」
「きゃはぁ、ご挨拶ぅ♪」
ハスキーな顔でけたけたと笑う。ああくそ、耳障りだ。ヴェネは歯を軋った。
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