84、バクチ

「ついでじゃ、模倣犯と人獣についても分かっておる事を話しておくぞ。


 ヤツらは薬のモニターと称して人を集め、半軟禁状態にして社会から隔離した。その上で集めた者達の体質を調べ、薬の服用から人獣化に至るまでの時間が近い人間でチームを組ませる。人殺しに対する罪悪感や道徳心は暗示で消し、人獣化までの時間を調節した上で仕事に送り込み、仕事をこなした模倣犯達は人目を忍んで逃走している最中に人獣化によってひっそりと死ぬ……と言うのが基本のサイクルのようじゃな」


「……やはり、かなり計画的な犯行ですね」

「そうかのぉ? 〝大鷲〟が後手に甘んじていたのは、模倣犯が人獣に変わり消える事を知る術が無かった……つまり〝薬〟の情報が欠如していただけに過ぎぬよ」


 肩をそびやかし、レミリィはヴェネ、ミオナ、ウェレイを順に見やった。


「もしも、これまでにあった一般人による人獣の目撃例が〝人獣が融ける場面〟まで見ていたなら? 先程の男のように暗示が不十分で、犯行前に逃げ出した模倣犯が公然の場で人獣と化したら? 僅かなズレが生じるだけでカラクリが全て露呈してしまう、無謀なバクチじゃよ。。それが今まで難事件として認知されていたのは、偶然が奇跡的に重なった結果じゃよ」


 この事件は恐らく、〝裏〟が専門の〝土竜〟が追った方が早く真実に辿り着けていた、と少し前にレミリィは言っていた。が、それでもやはり〝薬〟の存在はイレギュラーだ。新種の〝力〟だと言わざるを得ない。


 もはや結果論に過ぎないけれど。今すべきことは、出来る限り早く、けれど確実に、この事件を解決に導く事のみ。

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