83、狙い
「ウェレイさんとレミリィがこの事件に関わるきっかけは分かったよ。じゃあ、彼らの目的は? 僕らは金品の略奪が一番の目的だと思ってるんだけど、その一部を寄付して〝雲狐〟を装ったり、どうにもちぐはぐな印象なんだよね」
「それは前提が間違っておるからじゃ。恐らくぬしら〝大鷲〟は、〝模倣犯〟の最初の犯行で殺されたのが資産家一家じゃったからそう考えたのじゃろうが、逆じゃよ」
「逆……? どういう事ですか」
「資産家の方がついでだった、って事。その犯行の一番の目的は……スコルピオで重役をやってて、数年前に退職した資産家の父親を殺す事だったの」
ウェレイも良く知ってる人で、養子であるウェレイの事もよく気に掛けてくれた。定年を迎えても重役の椅子に居座るヤツが多い中、もうそんな時代じゃない、と自ら一線を退いて退職した、会社思いの人でもあった。
ウェレイから見て、無骨で職人気質な先代社長の気質をそのまま受け継いでいるような人でもあった。だからか、彼はスコルピオが裏取引に手を出している事を知り、忠告に来てくれたのだ。一時しのぎにすぎない、先代はそんなやり方を望まない、と。
そんな彼を、重役達はどうにかなだめすかして帰らせた。そして、その一ヶ月後だ。彼が殺されたのは。
あの時は、資産家が殺された時に不幸にも巻き添えになった、としか思わなかったけど、今なら分かる。彼は裏取引の事が公に知られないよう口封じの為に殺されたのであって、不幸だったのはその場に居合わせてしまった他の資産家家族の方だ。
「一連の事件であいつらは、裏取引について勘付いてそれを公表しかねないような人ばっかり狙ってる。その目的を悟られない為に関係ない人を不規則に殺したり、金品を寄付をして〝雲狐〟を装ったりしてる、ってのがあたし達の考え」
「……そんな下卑た理由で、母さんの通り名を……っ!」
カップを握るミオナの手が小さく震える。そんな彼女をちらと見やり、ヴェネが言った。
「スコルピオでも、模倣犯による死者が出てるよね?」
「うん。でも、さっきも言ったけど、裏取引について知ってるのは極わずか。多分口封じとかじゃなくて……スコルピオが被害者だと世間に印象付けようとしたんじゃ、ないかな」
「その為に、罪も無い社員が犠牲になった、か……クズだね」
そう。調べれば調べるほど、出てくるのは重役達がクズだと分かる胸糞な情報ばかり。
そして、そろそろ行動に移せるだろうか、と考え始めた矢先に、模倣犯を捨て駒にしてウェレイ達を亡き者にしようとした。もう、我慢の限界だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます