71、祈り

 と、遊具の陰から音も無く現れる影。ウェレイはその名を呼んだ。


「……レミリィ。良かった、無事だったんだね」

「私とて〝裏〟を生きる人間じゃ。あの程度では死ねぬよ」


 少し手間取りはしたがの、と笑いながら歩み寄る情報屋の少女、レミリィ。ヴェネは小さく目を見開き、ミオナも隠しきれない驚きを顔に出していた。


「え、どうしてレミリィさんが……」

「久しぶりじゃのぉ、ミオナ。あと、ヴェネも。私の依頼人を救ってくれて、まずは感謝の意を示すとするかの」


「依頼人…………、……なるほど。僕らは囮か」

「その通りじゃ、悪く思うな」

「え? え?」


 ヴェネはレミリィとの付き合いがある程度あるらしいので、もう既に色々察したらしい。右往左往しているミオナの様子が、ヴェネ達との対比でやけに可愛らしく見える。


 ウェレイはヴェネを、ミオナを一瞥し、決意の眼差しと共に言い放った。


「ヴェネ君が言うように、あたしは知ってる。レミリィと一緒に、ずっと動き続けて来たから」

「こうなった以上、時間を掛けてはおれぬのでな。幸い、最低限必要なモノは揃った。勝手な言い分じゃが、協力してもらうぞ?」


 ヴェネもミオナも何も言わない。ただ、こちらの言葉を黙って待ち続けている。


 言うべき事は他にもあったと思う。2人に説明しなければならない事も山ほどあったはずだ。でも、そのどれもが思い浮かばなくて。


 命を狙われ、何とか助かった安堵感。今から自分が為すべき事への使命感。色々な感情がごちゃ混ぜになって、気が付いたら2人の方に手を置いて俯いていた。


「お願い、します……ヴェネ君、ミオナ」


 まるで、祈りを捧げるように。


「……あたしを、あたし達を、助けて……っ!」


 凛とした顔は、けれど呆気無く大粒の涙に流され、くしゃりと崩れて消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る