47、考察

「エレちゃん、何本?」

「8本」


「いつもより多いじゃん。死ぬよ、糖尿で」

「糖尿で死ぬ15歳なんているの?」


 いるんじゃない? と言いつつもシュガースティックを8本渡すヴェネ。


 こういう甘やかしが糖尿病患者の増加を加速させるんでしょうね、甘やかしだけに。


 適当に考えながら、ミオナも3本分コーヒーの中にぶちまける。


 そして、3人同時にコーヒーを啜る……あれ、お茶会をしに来たんでしたっけ? 私。


 そんなのんびりとした空気を引き締めたのは、エレノアだった。


「今朝の事を踏まえて、人獣事件と模倣犯事件の捜査は統括される事に決まったわ。わたしも〝燕〟としてそっちに合流する」


 机の上に紙の束を放り投げるエレノア。模倣犯事件の捜査資料のようだ。


「とりあえず一通り目を通したから、ある程度の情報共有は出来てると考えて」

「へぇ。じゃあ問題。ミオナさんは何者だと思う?」


「〝雲狐〟の血縁者。ヴァイルブス、って時点で気付くに決まってる」

「正解、娘さんね。じゃあ僕らも時間を見つけて人獣事件の捜査資料を読み込むとして、ひとまず状況を整理してみよっか」


 ……さらっと人の素性を暴露しましたね、この〝死神〟。今さら隠す意味も無いとは思うけど、やっぱり一度ぶん殴ろう。そうしよう。


 密かに決意するミオナ。と、ヴェネはぴっと人差し指を立てた。


「今朝、僕らが遭遇した黒装束が模倣犯だったと仮定するよ。もしそうなら、彼らを拘束した時点で模倣犯事件は解決、ないしは解決にかなり近づけたはずだった」

「けど予期せぬ事態になった」

「そ、人獣だね」


 一つ一つ、言葉を噛みしめながらヴェネは続ける。


「模倣犯は人獣に変わり、しかも融けて消えた、か。〝人獣化ライカンスロープ〟の前例は無いわけじゃないけど、融けて消えるなんて初めて聞いたわね」

「そこについては、ちょっとだけ心当たりがあるんだ」

「? どういう事ですか、ヴェネさん」


 問うと、ヴェネは困ったように頬を掻いた。


「まぁ、そうであって欲しくない、っていう願望も込みなんだけど」

「あんたの願望に興味は無い。とっとと話せ」


「僕の古い知り合いが〝人獣化〟……っていうか、〝先祖返り〟の研究をしてたんだ。そいつはもう死んじゃったから、誰かがその研究を引き継いだ可能性はあるかな、って」

「つまり、あんたは〝人獣化〟は人為的な仕業だと考えてるわけ?」


 頷いたヴェネは、カップに口を付けて一息置いた。


「で、ここから立てられる仮説が一つ。『模倣犯が犯行を終えた後、人獣となって暴れ回ってそのまま死亡、融けて消えた』……どう思う? エレちゃん」

「模倣犯も人獣も〝生きてる〟状態の目撃証言ばかり。それらしき死体が全く見つかってない、そこにも一応説明がつく、か。だとすると、模倣犯事件と人獣事件の発生時期にも関連性がありそうね。後で照合してみるわ」


 腕を組むエレノア。ミオナもその意見に概ね賛同できたが、疑問点もあった。

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