48、薬と超能と人獣
「……模倣犯が犯行後に人獣となって死んだのなら、模倣犯の犯行が全て同一人物によるもの、という今までの発想は覆えされますね。人獣は複数回、目撃されているようですし」
「ああ、それもそうね。模倣犯の首謀者と実行犯が別に存在し、犯行の度に人員を補充……いや、模倣犯が全員超能使いだって言うなら、そんな気軽に補充できるはずもないか」
「それなんだけど」
青年から聞かされた〝薬〟について話すヴェネ。最初こそ訝しげだったエレノアの瞳が、次第に獰猛な光を宿していく。
ぞくりとする。本当に15歳ですかこの人は。
「超能を開花させる薬……それが超能だけじゃなく人獣化の
「超能は太古の昔から人間の内に眠る〝力〟。対して人獣化は人間という種のかつての姿を呼び起こす現象とされてるからね」
「イメージとしては、繋がりますね」
もしも仮にそんな薬があるとして。遊ぶ金欲しさで倫理や道徳といったものを投げ捨てたごろつきを掻き集め、彼らにそれを与えたとしよう。
彼らはさぞ驚く事だろう。才能の無い者には一切扱えないはずの超能が、たったそれだけの事で簡単に我が物となったのだから。
その次に恐らく、その〝力〟に酔う。人間だれしも、身に付けた〝力〟をどこかで使い、活かしたくなるもの。それが常人には到底扱えないような珍しい〝力〟ならば尚更のことだ。
そして、酔ったごろつき達は薬を提供した首謀者の口車に乗り、模倣犯として存分に〝力〟を振りかざし、やがて人獣となって人知れずこの世から〝消える〟。
両事件の犯行の痕はそこかしこに残るも、犯人の足取りだけが掴めない。まさか〝融けて消えた〟なんて誰も考えない。完全犯罪の出来上がりだ。
「ふん、状況証拠からの推測でしかないけど、一応筋は通ってるわね。
「だね。もしその仮説が正しければ、模倣犯か人獣を捕まえて黒幕を吐かせるのが一番手っ取り早いかな? やるべき事はあまり変わらないかもね」
「模倣犯はともかく、人獣はどうすんのよ。天下の〝死神〟様があの世に取り逃がすくらいには厄介な相手なんでしょ?」
「反省してるから許してってば。一応、対策は色々考えてるからさ」
「具体的に」
「えっとね……って、ごめんね」
懐からケータイを取り出し、席を外すヴェネ。着信があったらしい。
ちっ、と小さく舌打ちしたエレノアも立ち上がり、口の中の飴をからころ転がしながら歩き出す。
「エレノアさん、どちらに?」
「〝烏〟に連絡する。〝薬〟の件の調査依頼と……あと、人員の一部をこっちに回すよう交渉してみるわ」
「? 回す、とは?」
「あいつら、人海戦術が得意なだけで、一部を除いて一人一人は雑魚だもの。超能使いとか人獣みたいな普通じゃない手合いは、わたし達の方が対応に慣れてる。だからわたしが陣頭指揮を執って、この事件に特化した捜査網を敷く」
なるほど、より効果的に敵を追い詰める為、か。
奥にある備え付けの電話を使って連絡を始めるエレノア。1人残されたミオナは手持ち無沙汰にコーヒーを啜った。
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