25、豹変
「ほいほい、こっちこっち~~」
小さな手が招くようにひらひらと舞う。小走りで彼女の後ろに付く。
「さっきはホントごめんね、みっともないとこ見せちゃって」
「あ、まぁ別にいいんですけど……」
呆けた声が漏れるも彼女は一切気にせず、からからと明るく笑う。
「そのお詫びと言っちゃなんだけど、奢るよお昼ご飯。丁度いい時間だし。あ、言っとくけどウチの社員食堂、安くて美味い事で有名なんだぞ? 腰抜かすなよ~~」
ウェレイ・オルレアンは、先程の固い口調などどこへやら、砕けた言葉でおどけた。
社長室を後にしてからエレベーターで1階まで逆戻り。ちょうど昼時を少し過ぎた辺りな事もあって、エントランスは休憩に興じる社員達でごった返している。
その中に突っ込んで約1分。2人はようやく社員食堂の入口に辿り着く事が出来た。
と、彼女が不意に不安そうな表情に。
「えっと……うざい、ですか? あたし……じゃなくて、私の喋り方。堅苦しいのが苦手だと言ってたので、思い切って素に戻ってみたんだ……です、けど」
「え? あぁいや、全然そんな事は。その方が僕も断然気が楽ですし」
堅苦しいのが苦手なのは間違いないけど、そんな事話したっけ? 社長室に向かう間、慣れない真剣モードに移行するべく精神をすり減らしていて、秘書であるウェレイとの会話は半分上の空だった。まぁ、適当に答えたのかな、うん。
どちらにせよ、これ程までに何の前触れもなく彼女の口調が砕け散るなど、誰が予想できようか。いやできまい。
一方ウェレイは返答に安堵したらしい。良かったぁ、と溜息交じりにパチンと指を鳴らす。
「ただまぁ……差が激しいなぁ、って」
「でしょでしょ? あたしってば学が無いからさ、秘書になって言葉遣いとか礼儀作法とか、徹底的に叩き直されたの。あの地獄の日々……うわぁ、思い出したくないなぁ」
笑いながら頭を抱えるウェレイ。百面相、という言葉がピッタリだ。そんな人があの秘書を演じ切るのだから、地獄の日々とやらがいかに地獄であったのかが垣間見える。
「で、どう呼べばいいかな? いきなり呼び捨てはやっぱ馴れ馴れしいよね」
「僕は別に構いませんけど……一応〝大鷲〟の捜査官としては、捜査の関係者と砕けた会話をするのあまり良くないかなって」
〝烏〟に所属していた時、パートナー関係にあった捜査官に何度も怒られたものだ。
例え相手が事件の被害者だとしても、感情移入し過ぎてはいけない。まぁ、言い分は分かる。〝大鷲〟の理想は、どこまでも中立な立場で事件に介入する事だから。
「そっかぁ……えっと、ヴェネ、さんは
言葉を選ぶようにウェレイ。それでもナチュラルに
ヴェネは口元に指を添えて考え込む。
「えっと、今年で……20歳? だったはずです」
「何でそんな自信無いの……で、あたしは22歳」
「22!?」
エレちゃんよりも小っちゃいのに……! と、ウェレイの口の端が吊り上がる。
「ん~? その身長で嘘つくなよ、って事ですか捜査官さん?」
「いや、まぁ……はい」
「残念、嘘じゃありません。って事で、あたしはヴェネ君、って呼ぶよ」
「じゃあ僕はウェレイさん、で」
「うん、よろしく!」
指をもう1度パチンと鳴らして満面の笑み。癖なんだろうか、指鳴らすの。
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