24、闖入者

 白髪の目立つ老人だ。曲がった腰を支えるべく携えた杖で乱暴に床を叩き、威圧するように歩を進める。睨みつけられたベルンは、慌てた様子で老人に歩み寄った。


「も、申し訳ありません! 客人をお見送りしてからすぐに参りますので……」

「客人? ……また〝大鷲〟の捜査官か」


 老人がこちらを見る。どうしたものか迷ったが、当たり障りの無い笑顔を返してみた。


「ふん、締まりの無い顔をした若造よの」


 お気に召さなかったらしい。不機嫌そうにヴェネを一瞥し、老人は踵を返す。


「早うせいよ。先代はもうおらんのじゃ。先日の事件は確かに一大事じゃが、こんな時じゃからこそ社長として、毅然たる姿で我が社を統率してもらわねばの!」

「……はい、承知しております」

「声が小さい! まったく……」


 気弱な返事に、老人はドアを叩きつけるように閉めて社長室を出て行った。


(元気な人だなぁ、年の割に)


 事前にスコルピオに関する情報を聞いた限りでは、この会社は先代社長が1年ほど前に病気で亡くなって、その息子であるベルンが跡を継いだばかりらしい。新米社長と呼んで差し支えないので、まだまだ彼への風当たりも強いのだろう。


「すみません、お見苦しい所を。まだ若輩の身なので……」


 閉じた扉を数秒見やったベルンが、ばつが悪そうに右頬を掻く。中指と人差し指に嵌められたシルバーとゴールドの指輪が、初冬の弱々しい日差しを反射してきらりと光った。


「……社長。後の事は私にお任せを」


 と、秘書のウェレイが1歩前に出てヴェネとベルンを交互に見る。


「いえ、ですが……」

「私が責任を持って彼をお見送りいたしますので、どうか重役の下へ……」

「…………、……はい、分かりました。ありがとう、ウェレイ」


 幾分か活力を取り戻した足取りで、それでは、と歩きだすベルン。


 ひどく申し訳なさそうに部屋を出て行く彼の後ろ姿を見送りながら、エレちゃんにこき使われてる僕もあんな感じなのかなぁ、などと場違いな事をぼんやり考えてみた。

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