12、またお会いしましたね
目的の場所にはすぐに辿り着いた。
路地裏に迷い込み、闇雲に歩き回るだけではまず入り込めない、奥まった場所だ。ここを訪れるとしたら、大手を振って日の光の下を歩きたがらない人間ぐらいのものだろう。
ヴェネはケータイを取り出し、メールの内容を再確認する。
指示された地点は間違いなくここだ。だが、問題となる様な光景はどこにも見当たらない。誤情報の可能性もないわけではないが、場所を移動したと考えるべきか。
「ひとまず、この辺りを探してみるかなぁ……って、その前に」
ヴェネは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「何か忘れものかな? 探すの手伝おうか?」
「…………、後学の為にお訊きします、どこで、お気付きになりました?」
路地の影から現れたのは、予想通りミオナだった。ヴェネは少し考え、
「どこで、って言われると……最初から、かな?」
「…………そう、ですか。これでも、隠密行動に長けている自負はあったのですが」
こんなに容易く見つかるなんて……! 彼女のしかめ面からはそんな本心が滲み出ていたが、こちらとて事実しか言っていないのだから仕方ない。
「で、僕を尾けた理由は? もう2度と出会いたくないんじゃなかったっけ?」
「……メールの内容が、気になりました」
バツが悪そうに、観念したように言うミオナ。メール……って、あぁそういう事か。ヴェネはケータイの画面を提示しつつ笑った。
「残念だけど、さっき送られてきたメールは模倣犯とは関係ないよ? ほら」
「……これは、〝烏〟からの指示、ですか?」
覗き込んでメールの文面にざっと目を通し、ミオナは首を傾げる。
「
今回の内容は、『男達によって路地裏に連れ込まれた、学生と思しき若い女性を救助せよ』だ。文面だけではただのナンパとも計画的な強姦とも取れるが……、
「……〝烏〟? あなたが? 本当にですか?」
こちらを観察し、あからさまに訝しげに言う。
「そこまで疑わずとも。まぁ僕の場合は昔、ほんのちょっと〝烏〟にいた事があっただけ。その名残でこき使われてるだけで、今は〝燕〟に所属してるよ」
「〝燕〟……あの異端部署に、ですか……、……」
なら納得です、と微妙に聞き捨てならない事を呟いたきり、何やら考え込む。そして、硬い表情のまま顔を上げた。
「事情は分かりました。私もその現場に向かわせて頂きます」
「え? 何で?」
「聞いてしまった以上、見過ごせません。言っておきますが、あなたに助力するのではありません。連れ込まれた少女を助ける、ただそれだけです」
完膚なきまでに論破する、という気概すらも見える強い語調。ヴェネは頬を掻いた。
「そこまで言わずとも。ミオナさんって物静かに見えて言葉キツイね」
「ほぼ初対面の女に対してそのような指摘をするあなたもどうかと思」
「い、いい加減にして下さいませ!」
暗雲で陰り始めた会話を、細くて甲高い声が断ち切った。
そう遠くない。ヴェネはミオナに目配せ。彼女もまた1つ頷き、2人は走り出す。
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