6、文字は苦手
「……ふぅ」
ゆっくりと視線を上げた。目がチカチカするので数回瞬き、多少マシになる。
目に飛び込んでくる、面白味の欠片も無い高層ビルの群れ。工事中のビルもちらほら見える事だし、まだまだ増えていくはずだ。
比例して犯罪も増えていくんだろうなぁ。足を止めて空を見上げたヴェネは、手にした紙の束を折り畳んでジャケットの裏ポケットにぐいと仕舞い込んだ。
殺人などの重犯罪を担当する捜査一課『貪り喰らう烏』、通称〝
さすがに歩きながら全てに目を通すのは面倒だ。そもそも、こんな往来で捜査資料を見る事自体、間違ってる気がするし。後にしよう、と心中で言い訳する。
「ていうか、よく考えたらもう一ヶ月近く経っちゃってるのか。最近起きた事件な気がするのは、捜査に召集されてすぐだからかなぁ」
ぼやいて歩みを再開する11月2日の昼下がり。陽光の暖かみを完全に打ち消す寒風の中、ヴェネは身を縮こまらせながら先を急いだ。
盗賊、〝雲狐〟を模倣した連続略奪、及び連続殺人、
ほぼ同時期に発生し、未だに解決していないこれら2つの事件が、ヴァーヌミリア共和国の中央区、〝大鷲〟本庁の管轄内における今現在の主な犯罪事情だ。
他の課の支援を主な任務とする〝燕〟は、つい先日それらの捜査に加えられた……のだが、人獣事件の方を担当したエレノアも含め、成果は芳しくない。
(犯人を捕まえられない〝大鷲〟を非難する声も増えてきてるしなぁ)
昨日の宝石強盗もまた、模倣犯を更に模倣した二重模倣と呼ばれるヤツらだった。〝
そして、結果的に
「もー、いつの時代も幅を利かせるのはクズばっかだね。やってらんないよ」
ま、僕が言うのもアレだけど。誰にともなくおどけて言ったヴェネは頭を振り、大通りから裏路地へと身を滑らせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます