第14話『魔王の指輪』
「主様、お供しマす」
「そうか」
「タっタ3人で30時間戦い続けるナんて無茶じャ!危険すぎる!」
確かにステータスを見たところ、驚くべきことにカタツムリの殻はドラゴンの鱗並に硬い。
戦闘において、防御力と攻撃力のステータスは対になる。
自分の攻撃力より相手の防御力が低かったら追加でダメージが入り、相手の防御力の方が高かったら入るダメージは減る。
だが少しややこしいのは、防御力と攻撃力はその個体の主要部位から出された平均値に過ぎないということ。
例えばだが、右手と左手の握力を計測したとする。計測後、出た数値両方の平均を出したとしよう。
簡単にいうと、その平均がステータスという形で表記されるのだ。
ゆえにステータスというのは曖昧なものであり、1つの目安でしかない。
……と、話が逸れた。
「大丈夫よ。デュークは身の危険を感じたら真っ先に逃げる男だから。そんな男ができるって言うのは勝てる確証があるってこと。だから心配しないで」
「そ、そうナの?何カ別の意味で任せて良いのカ心配にナってきタワい」
なんか酷くない?
俺の評価悪くない?
じいさんや、そんな目で見ないでおくれ。
「とにかく!お前らは上で休んでろ。何かあったらジュダルオンを向かわせる。いいな」
無言。皆が無言で鋭い視線を俺に向ける。
……居心地悪いな。
「そんなに俺の実力を疑ってるのか」
「当タり前ダ。どこの誰カも分カラん見ず知ラずのヤツがいきナり名乗り出て俺達の庭と言っても過言でハねぇ場所を荒ラそうとしてんダ。そんナヤツを信用できるハずガナい!この前線を任せラれるハずガナいダろう」
こりゃダメだ。
だって俺もそう思うもん。正論にも程がある。
いきなり知らない奴が「俺にぃ、任せとけぇぇえ!」って言ったところで信用できない。できっこないのだ。
こういう時、こういう場面ですることと言ったら決まっている。
暴力である。
「俺は弱いものいじめはあまり好きじゃない」
そう言ってのらりと立ち上がる。
防衛隊のヤツら、ジュダルオンを除いた全員が訝しげな表情だ。奇怪なものでも見てるかのような表情のヤツもいる。
それでも、構わない。
「かと言ってな」
防衛隊のヤツらに、殺気を飛ばす。それはまるで鋭い斬撃のように首へと一直線で飛んでいく。
殺気の斬撃は全員の首に直撃して貫き、虚空に消散した。
「嫌いでもないんだよ」
そして一体だけ、隊長であるバルザックの首にはサービスで、魔剣の刃先を押し当てる。
さっきのお返しだ。
なに?根に持ちすぎだって?当たり前だろう。俺はやられたらやり返すまで忘れないし気が済まない。
「任せてくれるな?隊長さんよぉ」
「…………分カっタ。ダガ、くれぐれも無茶ハしナいよう、そして、サせナいよう頼む」
最後にチラリとジュダルオンに視線を移してからそう言った。
ふむ。ジュダルオンに無茶をさせるな、と。
さり気なく俺の心配もする辺り。
……ぐぬぬ。なんか負けた気分だ。
俺はバルザックから魔剣を離し、鞘に閉まった。
「――切れていナい。ナんナのダ、今のハ」
震える声でそう呟いたもやしみたいなリザードマン、グリムは充血した目をガン開きにし、首を何度も何度も両手で触っていた。
「私としタことガ。隊長ガ狙ワれタのに全く反応できナいナんて」
ジュダルオンの姉、ハレーヌは己の槍を力なく握って、首を擦りながら悔しそうに唇を噛んだ。
他の面々もみんながみんな首を擦り、俺に恐怖の色を浮かべた瞳を向けている。
確実に俺の好感度はゼロを突っ切ってマイナスに入ってしまった。
取り戻すのは大変そうだ。
……ま、そこまで深くこいつらと関わるつもりは無い。カタツムリを倒すまでの、一時的な協力関係だ。
だから俺はやりたいようにやる!
「デュークよ。本当に大丈夫ナのカ?」
「任せとけ。なんたって俺は、――二十代目極剣だからよ」
「……なんと」
言っても分からないだろうな、と思いながらもそう言うと、何故かじいさんは目を丸くして息を呑んだ。
「お、おい、お前ラ!今日ハジュダルオン除く全員に休暇をヤる!ほラ、帰っタ帰っタ!」
バルザックが手を叩きながら帰るよう促すと、渋々従い全員立ち上がる。
だが、中々帰ろうとはしない。
「早くせんカい!」
じいさんが声を張り上げると、悔しそうに何度もこちらへ視線を送りながら帰って行った。
「おラ、長老も帰るぞ」
「いヤ、儂ハもう少しここにいようカの」
「ア?何言ってんダ。危ねーダろ、帰るぞ」
何やらバルザックとじいさんが言い争ってるのを小耳に挟みながら俺たちは準備を始めた。俺とジュダルオンは軽く体操を、マリーは詠唱を。
「主様、分カっているとハ思いマすガ一応警告を。奴らの酸ハ非常に危険です。絶対に浴びナいよう注意してくダサい」
「おう、ありがとよ……あー。それと、だな。その主様ってのを止めてくれ。なんかむず痒い。せめて名前で呼んでくれ」
「……分カりマしタ。でハ、今後デューク様と呼バせていタダきマす」
酸には気をつけろ、と。
恐らくあのカタツムリの正面に立たなければ大丈夫だろう。
気を付けて行動するに越したことはないな。
「――、攻撃増強(アタックブースト)!」
マリーが詠唱を終え放った魔法は俺とジュダルオン両方に掛けられる。
【ステータス】
«デューク・ゼノ・アルス・ライザーク»
攻撃:640+6+109+100
あれ?バフとは別になんか若干ステータス上がってる?
レベル100になればそういうこともあるのかな。
「む、起きたか」
体操をしながらカタツムリを見ていると、殻がカタカタ動き出した。
そして、カタツムリ特有のぬめぬめした灰色に近い白色の体、2つの触覚が、殻の中から姿を現した。
さて、俺の攻撃力はまだカタツムリの防御力よりも低い。では、何で攻撃力を補うか。それは――
「速さだ!」
俺は抜刀もせずに全力で駆け出した。
「オラァ!」
そして10メルほど離れたところにいるカタツムリの殻に右拳を叩き込んだ。その直後、カタツムリは口から何か吐き出した。
吐き出された何かは、すぐ地面に落ちて、肉が焼けるような音を発しながら地面を溶かし始めた。これが酸か。
速さで重さという力を乗せた全力の一撃により、カタツムリの殻は俺の右拳を中心にして人の頭一個分ほどの大きさの穴を空けた。
魔剣の柄を握り、素早く魔力を込め抜刀。晒されたカタツムリの体へ、突き刺した。
カタツムリの内臓は、殻の中に密集した状態で詰まっている。打撃による波動でまず内臓をシャッフルし、魔剣の能力である治癒再生不全攻撃でトドメを刺す。
カタツムリの殻はゆっくり修復されるが、カタツムリはそういう訳にもいかないらしく、奇妙な音を口から発しながら力なく触覚が垂れ下がった。
次の瞬間、カタツムリは光の粒子となり四散した。
『経験値を1230獲得しました』
経験値すくなっ!
ま、まぁこんだけ数いるんだ。仕方ない。
この方法でも問題なく倒せることは確認できた。
「マリー、ドロップアイテムの回収は頼んだ!」
「任せて!全部集めちゃうんだから!」
マリーは袖をまくって右腕を出し、全然無い力こぶをこちらに見せてニッと笑う。
うーん、あと数体でマリーのレベルが上がるだろうからちょっとしたら一旦止めるんだけどな。
ま、いっか。
「ナんという画期的ナ発想。流石ア……、デューク様ダ、私も負けぬよう精進せねバ……!」
ジュダルオンも槍を手に、1匹のカタツムリ目掛けて走り出した。
『おい俺様であの殻斬ろうとすんなよ?折れちまうぜ』
「わーってるよ。だから殴ってんだ」
ジュダルオンは、慣れた手つきで次々とカタツムリを倒していった。
俺も負けてられないな。よし、次だ!
「オラオラオラァ!!」
ハハハ!殴るのは剣とは違った楽しさがあるな!
悪くない。クソダークエロフ、じゃなかった。拳神ライアが戦いになると常に楽しそうに笑っている理由が、分かりたくはないが分かった気がする。
ジュダルオンと競い争うように、どんどんカタツムリを倒していく。
「ん?」
アドレナリンが大量に分泌されていたせいか全く気づかなかったが拳が血だらけになっていた。
あれ?今何体倒した?
「マリー!レベル今どれくらいだ?」
「あ、拾うのに夢中ですっかり忘れてた…………100よ!」
よーし!遂に100達成だ。これで後は上限解放するだけだな。
「マリーの解放が終わったら続きいくぞ!」
「分カりマしタ!」
『おい、テイムの約束はどこいった』
「…………」
『おい』
さーて、マリーの上限解放が終わるまで少し時間があるな。
俺はその間、ディアスポラのステータスを見ることにする。
【ステータス】
«魔剣ディアスポラ»
保持者:デューク・ゼノ・アルス・ライザーク
レア度:神話級
Lv:0(Next EXP:--)
HP:126/100+26
MP:141/100+41
攻撃:100+9
防御:100+27
魔法:100+27
«スキル»
『魔物使役:Lv--』『念話:Lv--』『修復:Lv1』『魔天:Lv2』『$%¥#:Lv&$』
保持者が『なし』から俺の名前に変わってるな。
それに前見た時よりも若干ステータスが上がっている。どういうことだ?
『フッフッフ。これは魔天の隠されし能力、その一端よ。気になるか?気になるよなぁ!』
……気になる。
確かに気になるけど、ディアスポラの態度がなんか無性にムカつく。
ここで肯定したら負けた気分になりそうだ。
「全く気にならない」
『よかろう!魔天の能力、その深淵を!のぞかせてやろう』
あれ、全然話聞いてない。
こいつただ能力見せたいだけだったよ。
そういえば前回中途半端に聞いて終わったからな。溜まってたんだろう。
『魔天』
・所持者に《魔王の指輪》を与える。
・《魔王の指輪》を装備する者が獲得した従魔のステータスの1.5倍獲得する。
・倒した魔物の魂を回収する。
・$#%&%$&??$&?
……また文字化けか。
毎回毎回なんなんだ。見せる気ゼロだろ。
結局俺がステータス開いて《魔王の指輪》見ないとよく分からないやつじゃないか。
【ステータス】
《ヒューマン》
«デューク・ゼノ・アルス・ライザーク»
Lv:102(Next EXP:33000)
HP:1179/1224+17
MP:262/235+27
持久:300/300
攻撃:654+6+109+100
防御:450+18+50
魔法:70+18
精神:810
俊敏:1246+5-16
«スキル»
『剣術:Lv44』『極剣流剣術::Lv12』『縮地:Lv31』『時空魔法:Lv3』
«装備»
《魔剣ディアスポラ》《天翔のブーツ》《鋼蚕繭のズボン・黒》《鋼蚕繭のカットソー・黒》《鋼蚕繭のコート・藍》《収納袋》《水創袋》《経験値大幅上昇の指輪》《魔王の指輪》
な、なんか前に比べてステータスがものすごく見づらくなってしまった。
上乗せされているステータスとされていないステータスがあるな。
……考えるよりも《魔王の指輪》を見たほうが早いか。
《魔王の指輪》
・テイムした魔物の支配権を得る。
・従魔と意思の疎通を可能にする。
・従魔のステータスを10%引き上げた後、持久と精神を除く従魔のステータス1%を所持者は獲得する。制限はない。
・獲得した経験値と同等を、近くにいる従魔に与える。
・近くにいる従魔が獲得した経験値と同等を受け取る。
・従魔に《準魔王の指輪》を与えることが出来る。(11/13)
・従魔【現在2体】
うへー。正直ドン引きだ。
これはいくらなんでも強すぎる。
つまり使役すればした分だけ俺も仲間も強くなるってことだ。道理でディアスポラが積極的に使役したがる訳だ。
獲得した経験値も共有されるのか。
これは俺かマリーが倒したほうがたくさんの経験値が貰えて良さそうだな。
能力を見ながら考えていると、マリーが手に持つ丸水晶が割れる音がした。
俺は思考を止めてマリーへ視線を向ける。
「ふぅ。上限解放できたわよ。しばらく私、魔法使えないから何かあったらよろしくね」
「分カりマしタ」
「了解。じゃあ、再開しますか」
俺達はカタツムリ狩りを再開した。
『おーい、使役しないのかー?』
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