第6話『レベル上限』
「――
マリーの短く発せられた声と共に剣身が淡い青で輝きだした。
青く光る剣は、まるで聖剣のようで――、って聖剣だった。
「……聖剣みたい」
「おい、列記とした聖剣だ」
「そ、そうだったわ」
全く、酷い奴だ。
確かに地味で硬いだけの剣だけど。
いくらなんでもそれはないぜ。
てことで聖剣っぽさがやっとでてきた聖剣をブンブン振り回してみる。
うん、綺麗な青だ。
じゃなくて、神聖属性の効果も切る様子がないし使えそうだ。
「持続時間は5分、といったところよ。効果が切れたらまたかけるけど、詠唱に時間かかっちゃうからその間はひたすら耐えるしかないわね。……本当にいけるの?」
「ん、多分」
「多分て……」
確信はない。
なんせうろ覚えの記憶からヒントを得て無理やり絞り出しただけだからな。
失敗してもいいから試してみよう。てな感じだ。
神聖属性を持つ剣などでアンデットを切ると、切られた断面に聖なる力みたいなものが残ってしまいアンデットは再生出来なくなる。
弱点を上手く切るなり刺すなりすれば倒せるのでは?という思いつきだ。
「よし、時間もない。やって駄目ならまた逃げて次考えよう」
「う、うん」
もうすぐのところまでエングールの群れは迫ってきている。
今回は聖剣を振るう都合上マリーをおぶっていけないから走る速度はマリーに合わせなければならない。
俊敏を一時的に大幅に上げる魔法を使ったとしてもマリーの俊敏は俺の半分にも届かない。
そこがちょっとネックだが、群れを超えればおぶっていけるからそれまで俺がなんとか頑張るしかないだろう。
目配せだけで出発の合図を取ると、先ほど同様俺が先頭となり、その後ろをマリーがついて行くような形で走り出した。
エングールの爛れたような赤紫の伸ばされた手を避け、懐に入り込み心臓付近を貫き、抉ってから投げ捨てた。
同じように迫って来たエングールも避けて今度は首を斬り飛ばした。
上半身と下半身を両断し、次は縦に両断。
斬って斬って、とにかく斬りまくった。
なぜなら、――肝心な弱点が分からないから。
「おらおらおらおらおら!」
経験値入らねぇ!弱点どこだ!
まずい。
非常にまずい。
無駄に時間ばかりが過ぎてしまう。
どこをどう狙えばいいんだ?
首切っても内蔵切っても効かないとなるともうどうしようもないぞ。
「――、
戦場に響き渡るその声を聞いて、俺は慌てて目を閉じた。
閉ざされた瞼の先が青白く染まる。なんとか間に合った。
『経験値28000+初撃破ボーナス28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
『レベルが75に上がりました』
『レベルが76に上がりました』
…………
『レベルが88に上がりました』
閉ざされた視界の隅に小さく映る文字と、脳内へと届けられた機械のような声で、エングールを遂に倒したことを知った。
聖炎の発動で倒した?
どこを切ったエングールを倒せたのかは不明だが、腕だけを切ったやつとかは生き残ってるみたいだ。
生き残ってるって、アンデットだけど。ぷぷぷ。
冗談はさておき、……理由は分からないが、とりあえず俺がこの剣で切ってマリーが聖魔法を使えば勝てるって訳だ。
まだ聖炎の効果が発動されているかもしれないので、恐る恐る目を開ける。
うん、もう大丈夫みたいだ。
まだ切っていない周りのエングール達は倒れはしないものの、皆が目を両手で押さえて叫び続けている。
……奇妙な光景だ。
じゃなくて。
攻撃するなら今のうちだろう。レベルが一気に上がったおかげか、力が漲ってくる。
このチャンスを活かさなければ損だ。
聖剣に付与された神聖属性は徐々に薄れ始めている。
残り時間でどれだけ仕留められるか、それで俺たちの生存確率が大きく変わる。
「マリー、そこに立ってろ」
できるだけマリーが視界に入る範囲内で、ぐるぐる回るようにして、エングールの首を落としては次の獲物を目掛けて駆ける。
どうして切断部位を首にしたかと言うと、単に切る時の面積が腹などに比べて少ないからだ。そして、首を斬ったエングールはさっきの神聖魔法で経験値に変わっていたようなので首を狙う。
何よりも首は落としやすい。
半身を斬っても、なかなかズレ落ちないのだ。切断した後に押すか蹴るかをしないと落ちていかない分余計な手間と時間がかかる。
首はというと、切断した後軽く聖剣を捻れば落ちていく。
だから楽なのだ。
「む、効果切れか……」
一旦構えを解いて、マリーの元へ急いで歩み寄る。
「俺は今からあの技を使う」
「……あの技って何?」
「そこから絶対に動くなよ」
「ちょっと、少しは説明しなさいよ!」
おいおい、この状況で説明しろってか?
全く我儘な嬢ちゃんだ。
でも動かれたら少し困るから軽く説明しておこう。
「舞うんだ」
「……?」
よし、伝わったみたいだな。
さすが相棒。少ない言葉で全て理解したようだ。これなら迷宮脱出も苦労せずいけるだろう。
頼もしい限りだ。
「極剣流――」
これから敵を斬り伏せるとは思えない、まるで今から剣舞を踊るかの如くどこか気品を感じる優雅な構えをとる。
下に向けられた剣先を、機敏な動作で眼前に持ってくる。
「――
俺が流した微細の魔力で剣の切っ先だけが紫に染まる。
まるで踊るかの如く横に振られた剣の切っ先から、紫の糸のような細く長い斬撃がものすごい速さで伸びる。
体に身を任せた、軽やかでしなやかな足さばきに合わせるように繰り出される剣からは途絶えることなく、糸のような斬撃がエングール達へ伸びていく。
一方的で圧倒的な斬撃は、エングール達に逃げる隙も暇も与えず、いとも簡単に体を切り刻んでいく。
再生しては続いてくる斬撃に切られてをエングールは繰り返す。
マリーがいる方向に向けられた斬撃はどうなるかというと、マリーに当たる直前避けるようにしなり、その奥にいるエングール達へ伸びる。
この魔力の斬撃は何らかの妨害が入り本体である俺と切断されない限り、操作することが可能だ。
そしてこの技は俺の魔力が続く限り延々と行うことが出来る。が、しかし持久も結構持っていかれるから大抵の場合は持久が切れる方が先だ。
聖与との併合も少し考えてはみたが不可能だろう。
なぜなら聖与はマリーの魔力によって成り立ったものだからだ。
マリーの魔力は、俺の魔力の波長と合わない。まぁ、合うことのほうが珍しいけど。
他人の魔力を簡単に操ることはできない。ましてや少しずつ伸ばすという繊細な操作は不可能に等しい。
「……はっ!」
はっきり言ってこの技の最中は周りを見る余裕が一切ない。
持続的に剣先に繊細で微量な魔力を流し続ける必要がある他、文字通り舞わなければならないからだ。
今の状況のように敵に囲まれて味方が少ない、もしくは密集している場合でないと使えない。下手したら味方に当ててしまう危険性がある。
実際マリーに注意を向けるので精一杯なほどだ。
「……ふっ!」
あかん、疲れてきた。
視界もブレ始めた。
やめだやめ。もうやめよう。これ以上は死んじゃうよ。
くるくる右足のつま先で回る体に、左足で静止をかける。
両の足を地につけた俺は、聖剣に流す魔力を切る。
肩で息をしながらどうなったのか、エングール達へと目を向ける。
……見事にバラバラだな。
死屍累々とした殺伐な光景を前になんとも言えずにいると、マリーが小さく呟いた。
「――、
うわっ!
目がぁ!目がぁぁぁ!
あいつやりやがった!せめて一声かけてくれ!
「仕返しよ!」
なんの!?
り、理不尽だぁぁ。
『経験値28000を獲得しました』
お?
『経験値28000を獲得しました』
『経験値28000を獲得しました』
それから、止まることなく脳内に無機質な声が響き続ける。
「……まじか」
「いけちゃったわね……」
……初めからこうしていれば良かったってことあるよね。
「……まじかー」
聖剣に神聖魔法を付与してチマチマ戦うよりも、圧倒的な斬撃数で再生が間に合わないくらい攻撃して聖炎で仕留めた方が確実だったらしい。
俺はなんとも言えない気持ちで天を仰ぐのだった。
あ、ここ上見ても赤土とマグマしかないや。
『レベルが100に上がりました』
『レベルが上限に達しました』
あ、あれ。
「もしかしてレベル100になったの?」
クリクリとした目を輝かせ、若干跳ねながらマリーが聞いてきた。
大分興奮気味だ。
俺は特に隠す必要も感じないので素直に答えた。
「そうだ。上限に達したとか出てきたな」
「ちょっとステータス見せてよ」
頭の中でステータスと念じると俺だけに見えるように空中へと文字が浮かび上がってきた。
それをマリーにも見えるよう、可視化せよと念じる。
すると今までより鮮明に空中へ映し出された。
これでいい筈だ。
【ステータス】
«デューク・ゼノ・アルス・ライザーク»
Lv:100(Next EXP:--)
HP:1200/1200
MP:230/230
持久:300/300
攻撃:640+500
防御:440+50
魔法:70
精神:810
俊敏:1220-16
«スキル»
『極剣流剣技:Lv8』『剣術:Lv44』『生活魔法:Lv--』『無属性魔法:Lv4』
«装備»
《聖剣ライザーク》《天翔のブーツ》《鋼蚕繭のズボン・黒》《鋼蚕繭のカットソー・黒》《鋼蚕繭のコート・藍》《収納袋》《水創袋》《経験値大幅上昇の指輪》
これが今の、レベル上限に達した俺のステータスだ。
な、なんだこれ。
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